広報の教科書
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第1章 広報は何のためにあるのか
1 誰に、何を伝える仕事なのか
近所に新しいパン屋ができる場面を思い浮かべてください。店が知らせる相手は、パンを買うお客さんだけでしょうか。店で働く人、材料を届ける会社、近所に住む人も、開店によって仕事や生活が変わります。
図でつかむ開店のお知らせ。相手によって、知りたいことが違う↕
会社から説明し、相手の質問も聞く。矢印は両方向です。
会社の活動に関わる人や団体を「ステークホルダー」と呼びます。お客さんを指す「顧客」、店で働く人を指す「従業員」、材料などを売買する相手を指す「取引先」も、その一部です。仕事に応募する人、新聞社やテレビ局、役所、会社の株を持つ人なども関係します。
会社が新しい店舗を開く場合を考えてみます。顧客は品ぞろえや利用方法を知りたいかもしれません。従業員は働く時間や担当、近所に住む人は騒音や交通、取引先は発注や支払いの変更を気にします。同じ開店でも、相手によって必要な説明は変わります。
広報担当者は、相手ごとに「何が知りたいか」を考え、伝える内容と順番を決めます。説明しても疑問や不満が残るときは、もう一度話を聞きます。説明を足すだけでは解決しない場合は、その仕事の担当者に対応の見直しを相談します。
日本パブリックリレーションズ協会の解説を読むと、広報には情報を届ける仕事と、相手の声を聴く仕事の両方があると分かります。この教材では、顧客の疑問を聞き取り、社内で改善を相談し、その結果を伝える、といった具体的な仕事として考えます。協会の定義文をそのまま載せたものではありません。参考資料1
取引先に伝える内容も、相手の仕事から考えます。材料を届ける会社なら納品場所と受け入れ時間、従業員なら勤務場所と交代時間、来店する人なら駐車場所が必要です。売買の契約がない近隣住民も、車の出入りや音の影響を受けるため、説明する相手に含めます。
2 広報と経営のつながり
例えば「購入後も安心して相談できる店」と発信しているのに、電話がつながらず、問い合わせへの回答にも時間がかかっていたとします。広報担当者が文章を工夫しても、利用者の経験との食い違いは残ります。
この場合、広報担当者は「何時ごろ、どれくらい電話がつながらないのか」を調べ、店長や受付担当者に伝えます。そのうえで、電話を受ける人数や受付方法を変えられないか相談します。自分で人を増やすことを決められなくても、困っている人の声を伝え、改善を提案できます。
米国の広報の専門団体PRSAも、世の中の意見を調べること、経営者に助言すること、会社の評判を守ること、計画を実行して結果を確かめることなどを、広報の仕事として説明しています。参考資料2
改善の相談には、困っている内容が分かる記録を使います。例えば保証の質問なら、質問された条件ごとの件数と実際の質問文をまとめます。ページの閲覧数だけでは、対象外の条件が分からないのか、手続きで迷ったのかまでは分かりません。
3 広報の王道となる仕事の流れ
広報の基本は、調べて、計画を立て、実行し、結果を確かめることです。この教材では、この基本的な進め方を「王道」と呼びます。仕事は次の順に進めます。
図でつかむ知らせて終わりではなく、反応を聞いて直す↶ 分かったことを、次の取り組みに戻す
分かったことを次の調査や計画に戻し、繰り返します。
- 自社の事業と、関係者の状況を調べる。
- 誰に何が伝わっていないのか、どんな問題があるのかを明らかにする。
- 相手に何を知り、どう考え、どう行動してもらいたいかを目標にする。
- 確認できる事実をもとに、説明と対話の方法を考える。
- 社内の準備を整え、実施する。
- 相手の反応を確かめ、説明と実際の業務を改善する。
有名な新聞やテレビで紹介されることや、大きな話題になることが、いつも必要とは限りません。対象者が限られる重要な変更では、関係者への直接説明の方が目的に合うこともあります。
例えば「相談先を知ってもらう」が目的なら、毎日投稿しただけでは達成したか分かりません。読んだ人が相談先を答えられるかまで確かめます。
調べる段階では、届いた質問や現場の記録から問題を探します。計画では、どの疑問を解消するかと、そのための方法を決めます。実行後には、読んだ人が何を理解し、何に困ったかを確かめます。同じ質問が続いたら、案内を読んでいないのか、読んでも分からないのかを聞き、次の改善につなげます。
4 同じ会社でも相手によって評価が違う
あるカフェが週末限定の人気商品を発売し、SNSで大きな反響を得たとします。開店前から行列ができ、売上は伸びました。商品を買えた人は喜び、経営者も成功だと考えています。しかし、近隣住民は路上駐車に困り、隣の店は入口をふさがれ、スタッフは休憩を取れなくなっています。
顧客だけを見ていれば、これは成功事例に見えます。近隣住民や従業員にも目を向けると、売上が伸びる一方で、その人たちとの関係が悪くなっていると分かります。広報の成果は、このように売上など一つの数字だけでは判断できないことがあります。
担当者は、投稿をさらに拡散する前に、混雑の状況を現場に確認します。予約制にできるか、並ぶ場所を変えられるか、近隣への案内や連絡窓口は必要かを運営担当と相談します。改善内容が決まったら、来店者に協力を求め、近隣にも対策を説明します。ここでは、発信と事業運営を一緒に考える必要があります。
関係者全員の希望が一致するとは限りません。利用者には便利な営業時間の延長が、従業員や近隣には負担になることもあります。広報は、全員に好かれる文章を探す仕事ではありません。何を重視して決めたか、どんな影響を把握しているか、負担を減らすために何をするかを説明し、説明後も残っている意見を、決定の責任者に伝えます。
5 認知・好意・信頼の違いを知る
名前を知っていることと、好感を持っていることは別です。好感を持っていても、重要な仕事を任せられるとは限りません。名前や存在を知っていることを「認知」、いいなと思うことを「好意」、約束を守ってくれそうだと思って頼れることを「信頼」と呼びます。
図でつかむ「知っている」と「頼める」は別のこと信頼費用や作業を説明してくれるので、修理を頼めそう。
知名度や好感だけで信頼も高いとは言えません。必要な説明と実際の対応を確かめます。
例えば、楽しい動画を見て整備工場の名前を覚えた人がいたとします。その人は店の雰囲気を好きになっても、故障の原因を説明してもらえるか、費用は事前に分かるかについては判断できないかもしれません。信頼に関わる情報として、見積もりの手順、説明の仕方、作業記録、過去の対応などが必要になります。
そのため、認知を広げたい段階と、商品や会社を比較して選んでもらいたい段階では、用意する情報が変わります。面白い投稿の反応が良くても、専門性や取引条件の説明まで十分に届いたとは判断できません。「名前を知ってほしい」のか、「安心して修理を頼めるか判断してほしい」のかで、必要な記事は変わります。知ってもらうための投稿ばかりになっていないか、確認してみましょう。
信頼には日々の経験も影響します。質問への回答が毎回違う、約束した時刻に連絡がない、間違いを認めないといった経験が続くと、会社が大切にすると伝えている考え方との食い違いが生まれます。広報担当者自身の連絡や対応も、会社がどういう組織かを相手が判断する材料です。
6 双方向の対話でも合意できないことはある
会社が伝えるだけでなく、相手の話も聞くことを「双方向のコミュニケーション」といいます。コメント欄を用意するだけでは足りません。届いた意見を担当者に伝え、対応を変える必要があるか話し合います。その結果も相手に説明します。「ご意見ありがとうございます」と返信しても、担当部署に伝えていなければ、業務の改善にはつながりません。
一方、寄せられた意見をすべて採用することもできません。料金を下げてほしいという要望があっても、商品やサービスの質を保ち、仕事を続けるために応じない判断はあり得ます。その場合は、検討した内容、応じられない理由、代わりに選べる方法を説明します。要望を採用した件数だけでは、十分に話を聞き、説明できたかは判断できません。
「理解してもらえた」と「賛成してもらえた」も区別します。値上げの理由は理解したが利用は減らす、という反応もあります。説明によって不利益が消えるわけではありません。相手が自分の判断をできるよう、情報と時間を提供することにも意味があります。
日本広報学会は2023年に広報の定義を発表しています。原文を読むときは、広報が経営の中でどんな役割を担うのかに注目してみてください。例えば、営業時間の変更を知らせるだけでなく、利用者が困ることを調べ、案内方法や相談窓口を見直すところまで考えると、仕事の範囲を捉えやすくなります。これは定義を学ぶための教材独自の説明と例です。定義の正確な文言は、学会の公開資料で確認できます。日本広報学会の定義
第2章 広報と周辺の仕事を区別する
「媒体」とは、新聞、テレビ、Webサイト、SNSなど、情報を届ける場所や手段です。以下の章でも、この意味で使います。
1 広報・宣伝・マーケティング・営業
同じ店でも、商品を考える人、広告を出す人、お客さんに商品を説明する人では、主な仕事が違います。一人でいくつかを担当する会社もあります。まず、それぞれが何をする仕事か見てみましょう。
広報も売上や採用に貢献します。ただし、売上だけでは、従業員への説明や地域との関係、不具合時の情報提供を評価しきれません。記事の公開や説明会などの活動ごとに、何を達成したいかを決めます。
2 PRという言葉の二つの使われ方
日常会話では「商品のPR」が、商品の宣伝や紹介という意味で使われます。一方、広報の仕事で使うPRは、Public Relationsの略です。会社の説明を伝えることと、周りの人の話を聞くことの両方を含みます。日常会話の「宣伝」より広い意味です。
また、SNSの「PR」「広告」という表示は、広告であることを示すために使われます。広報全体の意味と混同せず、会話の中でどの意味なのかを確認します。
3 広告と報道の違い
広告では、契約や媒体の基準の範囲で、掲載内容や時期を取り決めます。報道では、編集部や記者が、取材するか、何を書くか、いつ掲載するかを判断します。
図でつかむ広告と報道は、内容を決める人が違う広告会社と媒体が、契約や掲載基準に沿って内容・時期を決める。
報道記者や編集部が、取材するか・何を書くか・いつ載せるかを決める。
会社が渡す資料は、記者が取材するための材料です。記事の掲載や内容を約束するものではありません。
会社が新聞社やテレビ局などに発表内容を知らせる資料を「プレスリリース」と呼びます。送っても、必ず記事になるわけではありません。広告を掲載するためにお金を払ったからといって、好意的な報道を要求できるわけでもありません。費用を伴う記事広告と、編集部の判断による報道は、企画段階から区別して扱います。
4 広報は無料の広告という理解では足りない
報道記事には通常、広告枠のような掲載料を払わないため、広報を「無料で取り上げてもらう仕事」と捉えることがあります。しかし、調査、資料、取材への対応、写真、イベントには人手も費用もかかります。掲載料がないことと、活動に費用がかからないことは別です。
さらに大きな違いは、記事の内容や掲載時期を自社では決められないことです。新商品の紹介を期待して取材を受けても、記事の中心が業界の問題点になるかもしれません。商品を使った人の評価が、自社の説明と違うこともあります。第三者が独自に判断する以上、期待した表現だけを掲載してもらう前提では進められません。
広告には、対象や掲載時期を契約の範囲で計画しやすい利点があります。報道には、第三者の視点で情報が検証され、読者に関係する出来事や課題とともに紹介される可能性があります。どちらかが常に優れているという関係ではなく、目的と条件によって使い方が変わります。
例えば販売終了が迫る商品の案内なら、希望する日時に情報を届けるため、広告や自社の顧客への直接案内が適する場合があります。一方、業界で起きている変化を自社の取り組みとともに説明する場合には、報道機関への情報提供が役立つかもしれません。掲載されることを待つだけでは、必要な期限に届かないことがあります。
5 商品の広報と会社の広報は何が違うのか
商品広報では、何ができる商品か、誰に役立つか、いつどこで使えるかが中心になります。企業広報では、その会社が何を目指し、どう事業を行い、社会とどのように関わるかを扱います。新商品がなくても、会社の仕事や判断について説明する場面はあります。
例えば、同じ食品会社の発信でも、新しい冷凍食品の使い方は商品広報、仕入れ先との取引方針や工場の働き方は企業広報として考えられます。ただし、消費者は両者を完全に分けて評価するわけではありません。商品の品質に満足していても、会社の対応に不信を持つと選び方が変わることがあります。
会社名が知られていない企業では、商品だけ有名になることもあります。採用や取引先の開拓が課題なら、「あの商品を作っている会社だ」と分かるように説明する必要があるかもしれません。反対に、会社は有名でも新事業が理解されていないなら、その事業が誰のどんな役に立つのかを、具体的に説明する必要があります。
6 ブランドは担当者が決めた言葉だけではできない
「この店は親切だ」「このメーカーは丈夫な物を作る」。こうした会社や商品の印象には、ブランドが関係しています。会社が「親切」「新しい技術に強い」「地域を大切にする」と名乗っても、相手が同じように感じるとは限りません。電話での対応、店の使いやすさ、商品の品質、契約の説明、問題が起きた後の扱いなどから、相手は会社について判断します。
広報は、会社が発信している約束と、利用者が実際に経験することが合っているかを考えます。「初めての人にも分かりやすい」と伝えるなら、専門用語の多い契約書や、質問しにくい受付方法を見直す必要が出てきます。見た目やキャッチコピーをそろえる仕事だけでは、こうした課題を扱いきれません。
営業がすぐ契約につなげたい内容と、広報が長く伝えたい内容に違いが出ることもあります。商品の限界をどこまで説明するか、予約が埋まった後も告知を続けるか、といった問題です。担当者の好みで対立せず、購入後の不満や現場の対応まで含めて、どの情報を優先するか話し合います。
第3章 一般的な広報の業務範囲
1 広報の全体像
この表は、広報に関わる仕事の一覧です。広報担当者が一人ですべてを引き受ける、という意味ではありません。採用は人事担当、安全への対応は現場の担当者などと一緒に進めます。IRは、会社の株を持つ人や投資を考える人に、会社の業績や計画を説明する仕事です。お金を管理する経理・財務の担当者とも協力します。
図でつかむ広報の仕事を、四つの働きで見渡す↓
SNSや記事の制作は、この中の一部です。人事、経理、現場などと協力して進めます。
2 小さな会社で優先すること
一人で広報を担当する場合は、最初に、誰が何を担当するかを決めます。会社と主力事業の説明をそろえ、問い合わせ窓口を明確にし、誰が事実を確認し、誰が公開を承認するかを決めます。緊急時の連絡先も必要です。
そのうえで、最も重要な相手と課題に合わせて、継続できる媒体を選びます。SNSや動画の種類を増やすほど、確認、返信、更新、効果測定にも時間がかかります。発信できる量と、問い合わせを受けた後に対応できる量を一緒に考えます。
3 広報担当者が知っておきたい社内情報
まず調べるのは、自分の会社が「誰の役に立ち、何を売って、お金を得ているのか」です。商品名や特徴だけでなく、提供できないこと、価格や保証の条件、現場の業務、顧客が不満を感じやすい点も理解します。
会社が大切にする考え方、これまでの歩み、経営の方針、主な実績も整理します。同じような商品やサービスを提供する他社との違いや、担当者への連絡方法も確認します。数字には集計時点、対象範囲、確認者を付け、古い会社案内の数字をそのまま使わないようにします。
4 会社の規模と業種によって仕事は変わる
大きな会社では、企業広報、商品広報、社内広報、IR、危機管理などに担当が分かれている場合があります。専門性を高めやすい一方、部署ごとに説明が違う、情報が別々に管理されるという問題が起き得ます。部署どうしで確認する場がないと、同じ会社なのに説明が食い違うことがあります。
小さな会社では、経営者や営業担当者が広報を兼務することがあります。意思決定が速い反面、確認が一人に集中したり、担当者が休むと窓口が止まったりします。細かな役割分担を決める前に、主な情報の置き場所、確認者、代行者を明確にすることが役立ちます。
会社を相手に部品を売るメーカーを考えてみます。こうした商売を「法人向け」といいます。多くの人に社名を知ってもらうより、製品を設計する人や部品を買い付ける人に、どんな部品を作れるかを知ってもらう方が役立つ場合があります。情報を伝える主な方法は、その業界を専門に扱う新聞への情報提供、展示会、技術資料、導入企業の事例紹介などです。広く知られることだけを基準に評価すると、必要な相手への説明を見落とします。
病院、学校、市や町などの自治体、利益をメンバーに分けることを目的としない非営利団体などでは、利用者や住民が必要なサービスを受けられること、行政などが決めた内容や理由を理解できることが大きな課題になります。商品を買ってもらう発想だけでは、緊急時の情報提供や利用上の公平性を考えにくくなります。広報の基本は共通していても、組織が何を目指し、何に責任を持つかによって優先順位が変わります。
法人向けの説明では、「この部品を自分たちの製品に使えるか」を判断できる情報が必要です。性能値には測定した条件を添え、対応できる寸法や使い方を示します。導入企業数や会社の売上規模も参考にはなりますが、その用途で使えることの証明にはなりません。
5 広報担当者の仕事には編集と調整が多い
広報の仕事を外から見ると、完成した記事や発表会が目に入ります。実際には、その前に、何を扱うかを決め、担当者に話を聞き、数字をそろえ、関係者に内容を確かめてもらう作業があります。発表後の質問や、古くなった案内の更新も必要です。
例えば「導入実績100社」という数字を一つ掲載するだけでも、契約中の会社だけか、過去の契約を含むか、グループ会社を別々に数えるかを確認します。営業資料が100社、会社案内が95社なら、集計時点や定義の違いを調べます。文章を書く能力と同時に、こうした確認を進める能力が必要になります。
現場に資料作成を頼む際は、なぜ必要か、何に使うか、いつまでにどの程度の情報が欲しいかを伝えます。「何か面白いことはありませんか」だけでは、相手は何を探せばよいか分かりません。「初めて利用する人が迷う工程を説明したいので、受付から完了までを教えてほしい」のように、目的を具体的にすると協力を得やすくなります。
6 社外の専門家や制作会社と働く
PR会社には、広報の方針づくり、情報収集、記者への説明、イベントの運営などを頼めます。制作会社や編集者、デザイナーには、記事や動画、紙の資料などを作る仕事を頼めます。ただし、依頼先によって得意分野と契約範囲は違います。「広報をお願いする」という依頼だけでは、期待のずれが起きます。
依頼前に、解決したい課題、対象者、完成させる記事や資料、どこまで担当してもらうか、確認の手順、費用を整理します。掲載を目指す契約なのか、有料広告枠を含む契約なのかも確認します。毎月の報告に掲載件数が並ぶだけなら、その掲載が何に役立ったかまで話し合う必要があります。
外部に依頼しても、自社の事実と何を公開してよいかを判断する責任は残ります。製品ができることや、サービスを使える条件は自社で確認し、写真や原稿の利用範囲、契約終了後にデータを受け取れるかも決めます。運用のアカウントや資料が依頼先だけに残ると、担当変更の際に仕事を続けにくくなります。
第4章 広報の歴史と、伝わり方の基本
広報には、知らせる、意見を聞く、理解を確かめる、会社の対応を見直すという仕事があります。前の章で見た仕事を、伝わり方の仕組みから考えてみましょう。この章では歴史と理論を手掛かりに、その理由を考えます。理論を知ると、相手との間で何が起きているか、何を調べればよいかを考えやすくなります。
1 広報の歴史から何を学ぶのか
人に説明して理解や協力を求める活動は、現代の広報部ができる前からありました。近代の企業や行政の広報を考えるときは、新聞などの発達、企業活動の拡大、労働や地域の問題、戦争時の宣伝など、社会との関係を一緒に見る必要があります。
米国の広報史では、20世紀初めのアイビー・リーやエドワード・バーネイズがよく取り上げられます。リーは報道機関への情報提供、バーネイズは人々の意見や心理に関わる活動を考える際の人物です。彼らの活動を、そのまま現在の仕事で守るべき行動の手本とすることはできません。発信者の利益と、受け手が自分で判断する権利の関係も問われてきたからです。PR博物館の年表
専門職の団体として、米国ではPRSAが1947年に、日本では日本パブリックリレーションズ協会が1980年に発足しました。これは各国で広報が初めて生まれた年ではありません。学び方や仕事で守る決まり、広報が担当する役割を整える動きの一つとして捉えます。PRSAの沿革・日本パブリックリレーションズ協会の沿革
新聞、ラジオ、テレビ、インターネット、SNSと伝達手段が増えても、古い手段がすべて消えたわけではありません。地域の掲示板や電話が必要な人もいます。歴史を学ぶときは、誰に情報が届き、誰の声が聞かれなかったかにも目を向けてください。
2 一方向と双方向、組織が変わるかという違い
広報の活動を整理する代表的な考え方に、四つのモデルがあります。注目を集めることを中心にする「プレス・エージェント型」、正確な情報を一方向に伝える「広報・情報提供型」、相手を調べて説得に生かす「双方向・非対称型」、相手の意見を聞き組織側の対応も見直す「双方向・対称型」です。
図でつかむ何を目指すかで、活動の型が変わる注目を集める話題として取り上げられることを目指す。
組織も見直す生活への影響を聞き、搬入時間を変える。
四つの型の違いを示す教材独自の図です。上から順に進歩する段階表ではありません。
例えば、公園の工事を考えます。工事の日程を掲示するのは情報提供です。住民の不安を調べ、賛成してもらう説明を選ぶなら、相手への説得が中心です。住民の生活を聞いて、搬入時間や通行方法も見直すなら、組織の行動も変える対話になります。
双方向とは、単にコメント欄があることではありません。寄せられた意見を誰が読み、何を検討し、結果をどう返すかが必要です。ただし、対話をしたら必ず合意できるわけではありません。安全や予算などの制約を説明し、受け入れられない提案にも理由を返します。
四つのモデルは、世界中の広報が同じ順番で進化したという年表ではありません。緊急の避難案内では迅速な情報提供が必要ですし、施設計画では意見を聞く時間が必要です。活動の目的や状況に応じて、何が足りないかを考えます。対話を組織の判断に生かす議論は、Grunigの論文でも扱われています。
3 送った言葉と、受け取った意味は違うことがある
伝達には、送り手、メッセージ、伝える経路、受け手が関わります。送り手は考えを言葉や図にし、受け手は自分の知識や経験をもとに意味を読み取ります。例えば「点検が必要です」だけでは、今日使うのをやめるべきか、次の休みに予約すればよいかが分からないかもしれません。
図でつかむ送信できても、理解されたとは限らない確かめる質問や、相手の言葉で説明してもらった内容を聞く。
↶ 分かったことを、次の取り組みに戻す
読めない文字、難しい用語、見落としなど、どこで伝わらなかったかを探します。
伝達を妨げるものを「ノイズ」と呼びます。音が聞き取れないことだけでなく、専門用語を知らない、文字が小さい、通知が多くて気付かない、といったことも考えられます。送り手が送信できたことと、相手が理解できたことは区別します。OpenStaxの伝達過程の説明
相手から返ってくる質問や反応が「フィードバック」です。質問がなければ理解された、とも限りません。聞きにくい、連絡先が見つからない、説明を読むのをやめた場合もあります。必要な手順を自分の言葉で説明してもらうなど、目的に合う方法で確かめます。
例えば営業時間の変更なら、変更日、対象店舗、新しい時間を一緒に伝えます。問い合わせが来たら、同じ文を繰り返す前に、どの言葉や条件で迷ったかを聞きます。伝達の仕組みを整理すると、発信量を増やす以外の改善も見つかります。
4 議題設定とフレーミングを知る
報道である話題が繰り返し大きく扱われると、人々がその話題を重要だと考えるきっかけになる場合があります。報道が、人々の「何が重要な話題か」という受け止め方にどう関わるかを考えるのが「議題設定」、アジェンダ・セッティングです。報道を見た全員が同じ意見になる、という意味ではありません。McCombsとShawの研究
図でつかむ「何が話題か」と「どの面を見るか」議題設定水不足が繰り返し扱われ、重要な話題として意識される。
フレーミング同じ減便を、運転手不足から見るか、地域の移動から見るか。
誰もが同じ意見になるという法則ではありません。説明から抜けた立場を考える手掛かりです。
同じ出来事でも、どの側面を取り上げるかによって理解の仕方は変わります。バスの減便を「運転手不足への対応」として説明する場合と、「地域の移動手段が減る問題」として説明する場合では、注目する点が違います。出来事のどの面に注目して伝えるかを考えるのが「フレーミング」です。Entmanの研究
広報担当者は、自社に都合の良い面だけを目立たせるために、この考え方を使うべきではありません。運転手不足を説明するなら、利用者への影響や代わりの移動手段も確認します。別の立場から見ると何が抜けているかを点検するために使えます。
ニュース価値のある情報を提供しても、報道機関が取り上げるとは限りません。どのテーマをどう扱うかは編集上の判断です。掲載件数だけでなく、何が話題になり、どの疑問が残ったかを見ます。
5 情報は、人や媒体を経由して届く
会社が出した情報は、記者、専門家、友人、家族などを経由して届くことがあります。説明を読み直して紹介する人、経験を付け加える人、省略して伝える人がいるため、会社の原文と同じ形では届かないことがあります。
報道機関などが、どの情報を選び、どう扱うかを決める働きを「ゲートキーピング」と呼びます。SNSでも、利用者の共有やサービスの表示の仕組みによって、見える情報が変わります。広報担当者は、誰を通じて届くかと、元の説明を確認できる場所を考えます。
ある分野で周囲の人の判断に影響する人を「オピニオンリーダー」と呼ぶことがあります。フォロワー数が多い人だけを指すわけではありません。介護の相談で頼られる地域の専門職のように、ある話題と関係者の間で信頼される人もいます。
紹介してくれる人に情報を渡すときは、元の資料や発表元が分かる出典、どの場合に当てはまるかという条件、更新日を付けます。報酬や依頼関係がある場合の広告表示は第13章で確認します。第三者を通せば無条件に信頼される、あるいは会社の責任がなくなるということではありません。
6 人は情報を選び、経験と比べて読む
人は目に入ったすべての情報を、同じように読むわけではありません。関心のある話題を選び、自分の経験や考えと比べて判断します。すでに会社への不信がある人には、同じ「改善しました」という言葉でも、宣伝に聞こえるかもしれません。
自分の考えに合う情報を重く受け止め、合わない情報を軽く見る傾向を「確証バイアス」と呼びます。これは受け手だけの問題ではありません。広報担当者も、好意的なコメントばかり集めれば、困っている人の声を見落とします。OpenStaxの確証バイアスの説明
伝えたい結論を何度も繰り返す前に、相手が何を心配し、どの情報なら確かめられるかを考えます。修理品質への不安なら、抽象的に「安心」と書くだけでなく、点検項目、担当、保証の条件、相談先を示す方法があります。
理論や心理の用語は、一人ひとりの気持ちを決め付けるためには使えません。「反対する人はバイアスがある」と片付けず、指摘に事実が含まれていないか、自社の説明や対応に欠けた点がないかを確かめます。
7 経営に意見を戻すまでが広報
会社が自分をどう見せたいかと、社会からどう見られているかが違う場合、広報はその違いを経営に伝えます。「従業員を大切にする」と発信しているのに、現場では相談窓口を使えないという声があれば、文章の修正だけで終わらせられません。
組織の中で共有される考え方や、日々の仕事の習慣を「組織文化」と呼びます。社内報に方針を書くだけで文化が変わるわけではありません。管理職の対応や評価、相談への返答など、実際の行動と説明が合っているかを確認します。
広報から経営への報告では、相手の声、確認できた事実、会社への影響、検討してほしいことを分けます。例えば「苦情がある」だけでなく、「夜間の搬入音について近隣3世帯から連絡があり、担当部署と時刻の記録を確認した。搬入時間の変更を検討したい」と具体的にします。
公開する内容は、法律などの決まりや契約、本人の希望も確認して決めます。社内に共有することと、社外へ公表することは別の判断です。相手の声を適切な担当へ戻し、その後の対応まで確かめることが、信頼関係を保つ仕事につながります。
第5章 経営・マーケティング・ブランドを理解する
商品を紹介する文章が上手でも、会社が誰のどんな困りごとを解決しているかが分からなければ、説明は表面的になります。この章では、会社の仕事と広報を結び付けるための基礎を学びます。店や商品の例は、すべて学習用の架空例です。
第2章で広報と周辺の仕事の違いを学びました。ここでは、会社が誰に何を提供しているかを、もう少し詳しく整理します。
1 マーケティングは売り方を考えるだけではない
雨の日に、駅から会社まで歩く人が困っています。その人が欲しいのは傘かもしれませんが、解決したいことは「ぬれずに着くこと」です。傘の販売、貸し出し、屋根のある通路では、同じ困りごとへの答え方が違います。必要としていることを「ニーズ」、そのために欲しいと考える具体的な物や方法を「ウォンツ」と呼びます。
図でつかむ一つの必要に、複数の答え方がある↓
必要としていることと、それを解決する具体的な商品・方法を分けます。
マーケティングでは、相手の役に立つことは何かを考え、商品やサービスを用意し、届く方法と代金の受け取り方を整えます。広告を出すことは、その仕事の一部です。便利な傘を作っても、雨が降ったときに買える場所になければ、利用につながりません。
広報担当者は、商品の特徴に加え、利用者が何を解決できるかを説明します。「重さ200g」は特徴、「かばんに入れて持ち歩きやすい」は利用場面での利点です。ただし、軽さだけで丈夫さや使いやすさまで証明できるわけではありません。利点を説明するときも、事実と利用条件を確かめます。
マーケティングとブランドの基本用語は、米国マーケティング協会の定義でも確認できます。以下の店舗例と判断の練習は、この教材独自のものです。
2 STPで、誰の役に立つかを絞る
同じ自転車でも、短い距離の通学、子どもの送迎、週末の長距離走行では必要な機能が違います。商品を買う可能性がある人たちを、求めることや行動の共通点で分けることを「セグメンテーション」、その中から主に対応する相手を選ぶことを「ターゲティング」といいます。年齢だけでなく、使う目的や購入時の不安も分け方になります。
図でつかむSTPを自転車店で考える顧客の対象を選んでも、近隣住民や従業員への説明は必要です。
相手から見て、ほかの選択肢と比べてどんな違いがあるかを定めるのが「ポジショニング」です。通学向けの店なら、「速さを競う自転車」ではなく、「毎日の点検相談がしやすい店」を選ばれる理由にする考え方があります。この三つを、英語の頭文字からSTPと呼びます。OpenStaxのSTPの学習資料
「誰にでも最高の店」という説明では、具体的な違いが伝わりません。自社が提供できること、相手が求めること、ほかの選択肢を比べます。希望する位置づけと実態が違うなら、説明を強くする前に、営業時間や修理体制などのサービスも見直す必要があります。
ただし、売る相手を絞っても、広報で説明する相手はそれだけに限れません。店の周囲に住む人、働く人、取引先にも影響が及びます。顧客として選ぶ対象と、事業について説明する必要がある関係者は、分けて考えます。
3 4Pで、発信と実際の提供条件をそろえる
商品やサービスの組み立てを、Product、Price、Place、Promotionの四つから考える方法を「4P」と呼びます。順に、何を提供するか、価格をどうするか、どこでどう届けるか、どう知らせて利用につなげるか、という問いです。Promotionには広告や販売促進、商品についての広報などが関わります。会社の広報全体が、この一項目に収まるわけではありません。
図でつかむ宣伝の前に、提供条件をそろえる↓
予約が増えた後も対応できるか、現場と確認します。
広告で「いつでも相談」と伝えても、窓口が平日の昼しか開いていなければ、受け手の期待と実態がずれます。広報担当者だけで営業時間を決めることはできませんが、誤解が起きていることを運営担当者に伝え、案内と体制の両方を相談できます。
この四つは別々に決めて終わりではありません。予約が増えても修理する人が足りなければ、待ち時間が長くなります。発信前に、想定する反応を現場が受け止められるかまで確認します。
4 知った人が、必ず買うわけではない
利用者は、商品を知り、比較し、購入し、使い、誰かに話すことがあります。その経験を時間の流れに沿って整理するものを「カスタマージャーニー」と呼びます。すべての人が同じ順番で進むという法則ではありません。買った後に詳しく調べる人や、比較を続けて購入しない人もいます。
初めて店を知る人には「何を相談できる店か」、比較している人には「料金と対応範囲」、購入後の人には「使い方と困ったときの連絡先」が役立ちます。同じ記事を全員に見せるより、各段階の疑問に答える情報をつなぐ方が親切です。
会社と相手が接する場面を「タッチポイント」といいます。SNSの投稿だけでなく、検索結果、口コミ、電話、店舗、請求書なども含まれます。記事では丁寧でも、電話で説明が食い違えば、会社への評価に影響します。
法人向けの取引では、使う人と購入を決める人が違うこともあります。機械を使う現場担当者は操作や安全性、購入を担当する人は価格や届く時期、責任者は使い始めると仕事がどう変わるかを気にします。一人の関心だけで資料を作らず、誰が何を判断するかを調べます。
5 ブランドの約束と、相手の評価を分ける
ブランドには、商品や会社をほかと区別する名前や印だけでなく、それを見た相手が思い浮かべる期待や経験が関わります。会社や商品の名前を表すマークであるロゴをそろえると、同じ会社の商品だと見分けやすくなりますが、それだけで「困ったときに頼れる」という評価が得られるわけではありません。
図でつかむ会社の約束と、相手の体験を比べる会社が目指す姿「相談しやすい店」
ブランド・アイデンティティ
相手が抱く印象「予約方法が難しい」
ブランド・イメージ
ずれがあれば、表現だけでなく予約方法や対応も調べます。
会社が「こうありたい」と定める姿をブランド・アイデンティティ、相手が実際に抱いている印象をブランド・イメージと呼びます。会社が「相談しやすい」と考えていても、利用者が「予約方法が難しい」と感じていれば、両者は一致していません。
「レピュテーション」は、会社の行動や実績などについて積み重なった評判・評価を指します。顧客は品質、従業員は働き方、地域は安全や騒音を重視するかもしれません。名前や存在を知っている人が多いことと、それぞれの相手から良く評価されていることは別です。
ずれを調べるときは、目指す姿を決めた社内資料と、利用者への聞き取りや問い合わせを比べます。言い方だけを直すのか、予約方法や現場の対応も直すのかを分けて考えると、広報から改善を提案しやすくなります。
6 商品の説明と、会社の説明をつなぐ
商品の広報では、その商品の性能や利用条件を伝えます。企業広報では、会社がどんな事業をし、何を大切にし、社会にどう関わるかを説明します。同じ会社の発信として、事実や約束に矛盾がないことが必要です。
例えば企業サイトで「修理して長く使える」と説明しているのに、商品の案内に部品供給や修理窓口がなければ、約束を確かめられません。商品担当、営業、修理担当と話し、どの製品に、どの期間、どの条件で対応できるかをそろえます。
広告、広報、営業資料などの説明を連携させる考え方を「統合型マーケティング・コミュニケーション」、略してIMCと呼びます。すべての媒体で同じ文章を繰り返すという意味ではありません。伝える事実と中心となる約束をそろえ、読者に必要な詳しさは媒体ごとに変えます。OpenStaxのマーケティング・コミュニケーションの説明
取材記事の内容は編集部が決めます。自社の広告と同じ見出しにするよう求めることは、説明の統一とは別です。自社から渡す資料を正確にし、報道の判断を尊重することを両立させます。
7 経営者と話すための基本知識
会社が目指す将来の姿や、事業を続ける理由を理解すると、広報の優先順位を考えやすくなります。「売上を増やす」だけでなく、人を採用できない、地域との信頼が損なわれている、取引先に技術を理解されていない、といった問題も経営課題です。
売上は商品やサービスの販売によって得る金額です。利益は、売上などの収入に当たる「収益」から、それを得るためにかかった費用を引いたものです。売上が増えても、人件費や材料費がそれ以上に増えれば、利益は減ることがあります。広報でも、問い合わせ数だけでなく、対応する現場の時間や、解決したい経営課題との関係を考えます。
コーポレートガバナンスは、経営者が一人で勝手に決めたり、不正を見逃したりしないように、会社の経営を確認する仕組みです。会社として必要な判断を正しく行うために設けます。広報が不都合な声を上司に届けることも、経営判断の材料になります。ただし、広報担当者が会社の決定を一人で変えるわけではありません。判断する人と必要な情報を明らかにします。
経営者への報告なら、「投稿が10万回表示された」に続けて、「採用ページに進んだ人は何人か」「仕事内容の誤解が減ったか」「まだ分からないことは何か」を説明します。数値を会社の成果へ無理につなげず、分かったことと今後確かめることを示す姿勢が大切です。
第6章 広報は情報を集めることから始まる
会社の仕事と相手との関係が分かったら、企画に必要な情報を集めます。この章は、現場の話や資料から事実を確かめるための基本です。アンケートの設計や数字の読み方は第8章で詳しく学びます。
1 社外と社内の両方を見る
社外では、業界の動き、制度変更、競合の発表、顧客の困りごと、報道機関が継続して扱っているテーマを確認します。社内では、営業、接客、整備、開発、人事などから、よく聞かれる質問や仕事の変化を集めます。
社内で当たり前になっている作業が、社外の人には安心材料になることがあります。例えば、納車前点検で何を確認しているのか、購入後の相談を誰が受けるのか、といった情報です。現場の人に手順と理由を聞くと、説明の根拠が見つかります。
現場で集めた質問を、現在の案内文と比べることも役立ちます。何度も聞かれるのに案内にない内容や、書いてあっても伝わっていない条件を探します。作業の説明なら、何を確認し、どんな基準で判断するかまで聞きましょう。所要時間や顧客の感想だけでは、作業の中身を説明できないためです。
2 事実・意見・仮説を分ける
「事実」は記録などで確かめられたこと、「意見」はその人の考えや感想です。「仮説」は、まだ確かめていない予想を指します。例えば「問い合わせが多い」は、記録を数えた結果なのか、担当者の感想なのかで意味が違います。
図でつかむ同じ話でも、「確認できたこと」と「予想」を分ける仮説は調査の出発点です。記事を見た人に聞くなどして確かめるまでは、原因と決め付けません。
40件の相談は、すべての顧客の考えを代表するとは限りません。また、質問が多いことは関心の高さを示す場合もあります。説明不足と決め付けず、どこを読んで何が分からなかったのかを確認します。
「来月の相談件数を20件にしたい」のように、これから実現したい状態は「目標」です。すでに確認した事実や、原因を予想する仮説とは区別します。数字が書いてあっても、調査結果とは限りません。
3 情報を確かめる基本
数字や意見を発信する前に、誰が、いつ、何を、どうやって調べたのかを確認します。「顧客満足度が高い」なら、誰に、いつ、何人を対象に、どんな質問で調べたかが必要です。「業界初」なら、業界の範囲と比較調査の根拠が問われます。
コンピューターに文章の作成や判断などをさせる技術を「AI」と呼びます。AIが短くまとめた文章や、他社の記事は、確認先を探す手助けとして使えます。元の資料や担当者まで戻り、発表時点でも正しいかを確認します。AIが作った数値、人物の発言、導入事例を事実として扱わないことも基本です。
現場で話を聞くなら、「よく質問されること」「説明に時間がかかること」「誤解されやすいこと」を尋ねると、記事の材料になります。記録で確かめたことと、担当者がそう感じていることは分けてメモします。
4 目立つ意見と重大な問題を区別する
SNSで目立つ意見は、その媒体で投稿する人の声です。利用者全体の意見を、そのまま代表するとは限りません。投稿をしない人、困っていても問い合わせない人、利用をやめて離れた人の状況は見えにくいためです。
一方、件数が少ないから重要でないとも言えません。一人からの指摘でも、安全や差別、個人情報に関わる場合は重く受け止める必要があります。件数に加え、誰がどれほど困っているか、問題が続いているかを確認します。多いから正しい、少ないから無視できるという判断はしません。
例えば「予約方法が分からない」という投稿が1件あった場合、すぐに全体の仕組みを変更する前に、どこから案内を開いたか、スマホとパソコンのどちらを使ったか、どこで迷ったかを確かめます。同じ場所で止まっている人が他にもいないか、受付やアクセスの記録と比べます。寄せられた意見から「どこで迷ったのか」「同じ人が他にもいるか」と確認する項目を決め、調査を始めます。
5 相手を属性だけで理解しない
「30代」「地域の高齢者」のように、年齢や住む場所などで人を分けるときの特徴を「属性」といいます。誰に伝えるかを考える手掛かりの一つです。しかし、同じ年齢でも利用目的や知識、生活状況は違います。何を判断しようとしているか、何が不安か、何をすでに経験したかまで考えます。
輸入車の購入者でも、初めて所有する人と、何台も乗り継いだ人では必要な説明が違います。前者には費用や故障時の連絡先、後者には車の仕組みや過去の点検・修理の記録が重要かもしれません。属性だけで「この人はこの情報を求める」と決め付けず、質問や行動の記録から確かめます。
また、アンケートで「興味がある」と答えたことと、申し込みをすることは同じではありません。価格、日時、移動、手続きの難しさが障害になる場合があります。意見を聞く調査と、実際の行動を確認する調査は、目的に合わせて組み合わせます。
6 質問の仕方によって答えは変わる
「当社の丁寧なサポートに満足しましたか」と聞くと、サポートが丁寧だという評価を質問に含めてしまいます。「今回のサポートについて、満足度を教えてください」と聞き、必要に応じて理由を聞く方が、回答を誘導しにくくなります。
図でつかむ質問の言い方で、答えを誘導しない答えを誘導する聞き方「丁寧な対応に満足しましたか」
質問の中に、すでに「丁寧」という評価がある。
評価を決め付けない聞き方「今回の対応の満足度を教えてください」
続けて、そう答えた理由も聞く。
良い答えを集めるためではなく、相手が実際にどう感じたかを知るために聞きます。
聞き取りでも「うちの対応で安心しましたよね」より、「利用前に不安だったことは何ですか」「利用して分かりにくかった点はありますか」の方が、想定外の情報を得られます。答えが自社に不都合でも、相手が間違っていると説得する場にしないことが必要です。
調査結果を発表する場合は、対象の募集方法、実施時期、回答者数、質問文、答えを一つだけ選ぶ質問か、いくつでも選べる質問かも記録します。前者を「単一回答」、後者を「複数回答」といいます。顧客向けアンケートの結果を、一般生活者全体の結果として見せないようにします。詳しい集計を別紙にまとめておけば、記者や読者が数字の意味を確かめられます。
複数回答では、割合を足して100%を超えることがあります。100人のうち60人が「料金」、50人が「営業時間」を選んだ場合、両方を選んだ人がいるためです。「料金を選んだ人は60%」とは言えても、「料金だけを選んだ人は60%」とは言えません。回答者数、選べる数、割合を計算した方法を一緒に確かめます。
7 情報を継続して集め、社内で共有する
毎日大量の記事を読むだけでは、必要な変化を見つけにくくなります。自社に影響するテーマを決め、どの媒体や現場を見れば変化が分かるかを整理します。関連法令、顧客の生活、技術、人材、地域の動きなど、事業によって見る範囲は変わります。
集めた情報を共有するときは、要点と、自社にどう関係するかを一言添えます。「業界の記事がありました」より、「費用の内訳が分かることを重視する利用者の声が、複数の記事で紹介されている。自社の見積もり案内も分かりやすいか確認したい」と書くと、社内で次の仕事を相談できます。ただし、社会全体で同じことが起きていると確認できたのか、自分が読んだ記事からそう予想したのかは、分けて書きます。
情報を社内に流すだけでなく、その後に何が確認されたかも記録します。過去の指摘が再び出たときに、検討した経緯や改善結果まで分かれば、同じ議論を繰り返す負担を減らせます。
第7章 広報企画を組み立てる
集めた情報から、解決したい問題を選びます。この章では企画全体を組み立て、次の第8章で、現状や成果をどう調べるかを具体的にします。
1 目的と手段を分ける
「noteを始める」「動画を毎週出す」は、何をするかという「手段」の話です。その前に、「何のためにするのか」という「目的」を決めます。例えば「予約方法が分からない人を減らす」が目的なら、動画を作るほかに、予約ページの説明を直す方法も考えられます。
図でつかむ先に困りごとを考えると、方法を選びやすい「動画を毎週出す」は方法の一つ。困りごとに合っているかを確かめて選びます。
架空の中古車店「青葉モーターズ」を例に考えます。初めて輸入中古車を検討する人から、購入後の整備について繰り返し質問が寄せられています。店側は相談窓口を設けていますが、利用者には十分に伝わっていません。
ここでの課題は「SNSの投稿が少ないこと」とは限りません。購入後の相談先と対応条件が分からず、検討者が判断しにくいことです。
2 七つの項目で考える
何のために、誰に、何を理解してもらうかを決めた後に、媒体や制作物を選びます。計画と評価を初めから結び付ける考え方は、広報の成果を確かめる専門団体AMECが示す手順でも重視されています。参考資料3
3 戦略と施策の違い
「戦略」は、目標に向けて何に力を入れるかという方針です。「施策」は、その方針に沿って実際にすることです。例えば「初めて来る人が、予約方法で迷わないようにする」が方針なら、「予約手順の記事を書く」「店頭に案内を置く」が具体的な活動になります。
図でつかむ目的・戦略・施策を、一つの例でつなぐ戦略:力を入れる方針予約方法を探す場所に、分かりやすい説明をそろえる。
施策:実際にすること予約手順の記事を作る/店頭に案内を置く。
方法を決めたら、実際に予約できるかを確かめるところまで計画します。
この例なら「整備に不安がある検討者に、購入後の相談手順と対応条件を具体的に示して、判断に必要な情報をそろえる」が戦略です。よくある質問と答えをまとめた「FAQ」、整備担当者の記事、相談会は施策に当たります。FAQは「エフ・エー・キュー」と読みます。
4 目標値には根拠を付ける
目標を達成したか確かめられるように、「誰について」「いつまでに」「今はいくつで、いくつを目指すか」「どう調べるか」を決めます。例えば「3か月後、相談会後の確認アンケートで、相談窓口を正しく選べる人の割合を、初回測定の60%から80%にする」と設定します。これは方法を示すための架空の数値です。
今の数値が分からない場合は、まず調べます。取り組みの前の状態や最初に調べた数値は、後で比べる基準になります。これを「ベースライン」と呼びます。根拠なく「認知度を2倍にする」と決めても、必要な予算や手段を考えにくくなります。
売上や応募数を目標に含める場合は、商品、価格、営業、採用条件などの影響も整理します。広報が担当する部分を、関係部署と事前に合意しておくことが必要です。
5 一つの発表を準備から改善まで考える
架空の整備工場が、購入店を問わず参加できる点検相談会を開くとします。経営者は、初めて利用する人と話す機会を増やしたいと考えています。現場では、すぐ修理を頼みたい人と、予防の考え方を知りたい人が混在すると、当日の対応が難しくなるのではないかと心配しています。
ここで「相談会を告知してください」とだけ受け取ると、日時と写真を投稿する仕事で終わりがちです。しかし、参加者が期待する内容と現場が提供できる内容を先にそろえる必要があります。無料で行うのは相談までか、点検も含むか、見積もりをその場で出せるか、対応できる車種は何かを確認します。
調べた結果、今回は初めて輸入車を所有した人に、日常の点検と異常時の相談先を知ってもらう場にすると決まりました。すると、専門的な改造の相談を求める人より、車に詳しくなく、聞く相手が分からない人に向けた説明が必要になります。告知のタイトル、写真、申し込み項目、当日の進め方も、この目的に合わせて変わります。
発表前には、参加条件を確認できるページ、受付用の説明、質問集、満席になった場合の案内を用意します。受付開始後は、申し込み数だけでなく、質問内容を見て、意図した対象者に伝わっているかを確かめます。「無料で修理してもらえる」と誤解した問い合わせが多ければ、告知文を早めに直します。
当日は、申し込み時の説明と実際の内容が一致しているかを確認します。終了後は、参加者が日常の点検項目や相談窓口を理解したか、現場の負担は想定内だったかを振り返ります。参加者数が目標を上回っても、期待のずれや対応の混乱が大きければ、同じ形式をそのまま続けるとは判断できません。
6 何をしないかまで決める
少ない人数で、すべての相手に向けた記事や説明会を同時に用意するのは難しいことです。応募を考えている人、購入検討者、既存顧客、地域住民のいずれを優先するかによって、作る内容も情報を届ける場所も変わります。まず一つの課題を選び、他の課題は別の時期に扱う判断が必要になります。
例えば、仕事への応募を考える人からの問い合わせを早く増やしたいとします。その場合は、商品紹介よりも、働く人や一日の仕事、勤務条件を伝える記事が役立ちそうです。応募前によく聞かれる質問にも答えます。一方、利用者への重要な変更通知があるなら、その案内を優先する必要があります。何から始めるかは、「会社にとってどれほど大事か」「相手がどれほど困るか」「いつまでに必要か」「担当できる人は何人か」を比べて決めます。
企画書には「今回の対象外」も書けます。相談会なら「当日の修理作業は行わない」「売り込みを目的とした個別商談は別枠にする」などです。対象外を明確にすると、現場の準備と利用者への説明をそろえやすくなります。
7 年間計画は投稿の予定表だけではない
年間計画では、決算、採用、商品の発売、仕事が忙しくなる繁忙期、地域行事、会社の節目などを並べます。ただし、予定がある月に投稿を置くだけでは、目的とのつながりが見えません。各時期に、誰に、どんな情報が必要かを考えます。
例えば繁忙期前には利用方法や予約条件を知らせ、繁忙期には問い合わせの変化を確認し、終了後には改善した点をまとめる、というつながりを作れます。記事公開の締め切りから逆算して、取材、撮影、事実確認、承認の期間を確保します。社員への協力依頼も、忙しくなる前に相談できます。
突発的な取材や問題対応に使う余裕も必要です。制作予定をすべて埋めると、重大な変更があったときに更新が遅れます。あらかじめ優先度の低い企画や、延期できる仕事を決めておくと調整しやすくなります。
8 予算と工数を具体的に見積もる
作業に必要な手間を、人数と時間で表したものを「工数」と呼びます。例えば、2人がそれぞれ3時間かかる作業なら、2人×3時間で、合計6時間分の作業です。この量を6人時と表します。2人が同時に作業するなら、終わるまでの3時間とは区別します。予算と作業時間を見積もる際は、写真や動画の外注費に加え、社内取材、担当者による内容確認、公開後の対応にかかる時間も見積もります。「自分で作るので無料」と考えると、本来の業務にかかる負担が見えなくなります。
図でつかむ制作時間だけでなく、確認と公開後の時間も数える自分で作る場合にも時間はかかります。仕事を頼む相手の確認時間も予定に入れます。
制作物ごとに、おおよその時間と必要な協力を見積もります。そのうえで、目標の達成に役立つもの、再利用できるものを選びます。例えば、基本的な相談の流れを正確に説明する一本の記事ができれば、SNSの案内、営業の説明、取材資料にも利用できます。毎回新しい題材を探す前に、必要な基礎資料を整える方法もあります。
同じ資料を繰り返し使うときは、最新版の置き場所と更新する担当者を決めます。各担当が別々にコピーを更新すると、どれが正しい条件か分からなくなるためです。SNSや営業資料では必要な部分を紹介し、詳しい条件は共通の資料で確認できるようにします。
第8章 調査の設計と、成果を確かめる方法
広報の調査は、数字を飾るための仕事ではありません。「誰が困っているか」「何が伝わっていないか」「説明を変えて役立ったか」を確かめるために行います。前の章で決めた目的や目標をもとに、この章では、誰に何を聞き、数字をどう読むかを学びます。成果を報告して改善へつなげる方法は第15章で扱います。数字と事例は架空です。
1 知りたいことから調査方法を選ぶ
「会社の知名度を調べたい」と「問い合わせをためらう理由を知りたい」では、必要な調査が違います。調査前に、誰について、何を知り、その結果で何を決めるかを一文にします。例えば「地域の人が修理相談先を知っているか調べ、案内を置く場所を決める」と書きます。
図でつかむ理由を探すか、広がりを測るか定量調査同じ不安を持つ人は何%?
対象を決めて数える。
理由を見つけてから割合を調べるなど、目的に合わせて組み合わせます。
人数や割合などを測る調査を「定量調査」、理由や経験を詳しく聞く調査を「定性調査」といいます。アンケートは割合を調べること、インタビューは予想していなかった困りごとの発見に向いています。少人数の聞き取りで分かった理由を、全体にどれくらい多いか調べるように組み合わせることもできます。
自分たちで新しく集める調査と、すでにある統計や資料を調べる方法も区別します。新しく聞く前に、国や自治体がまとめた統計、過去の問い合わせ、すでにある調査で答えられないか確認します。既存資料を使う場合は、対象、調査時期、言葉の定義が今回の目的に合うかを確かめます。
例えば「問い合わせが少ない理由」について、来店者だけに聞くと、来店できなかった人の事情が抜けます。聞きやすい人を先に選ぶのではなく、答えを知るために必要な相手を考えます。
2 誰に聞いた数字なのかを確かめる
知りたい対象全体を「母集団」、その中から実際に調べる一部を「標本」といいます。市民の意見を知りたいなら市民全体が母集団です。自社SNSのアンケートに答えた人は、その一部であり、会社に関心のある人に偏る可能性があります。
図でつかむ知りたい人と、答えた人は同じ範囲か確認することSNSを見ない人や、答えない人が抜けていないか。
回答者が多くても、募集や回答の偏りは残ることがあります。
対象からくじ引きのように偶然で選ぶ方法を「無作為抽出」と呼びます。選ぶ人の好みで対象が決まる偏りを抑えるために使います。それでも、返事をしない人が多ければ、答えた人と答えなかった人の違いに注意が必要です。回答数が多いことだけでは、対象全体を代表しているとは言えません。
標本を使う調査には、選ばれた人の違いによるばらつきがあります。これを「標本誤差」と呼びます。質問の誤解、回答しない人の偏り、集計ミスなどは、それとは別の問題です。人数を増やしても、偏った募集方法や分かりにくい質問は自動では直りません。
一部の人を調べて全体の割合などを予想するとき、答えを一つの数値ではなく、幅を持たせて示す方法が「信頼区間」です。どんな方法で人を選んで調べたか、どう計算したかという条件が決まっている場合に使います。この区間だけで調査全体の質を保証できるわけではありません。自分から参加した人のSNSアンケートに、くじ引きのように対象を選んだ場合の計算で求めた幅をそのまま付けることは避け、必要なら調査の専門家に確認します。総務省統計局の統計用語解説
3 質問文と答え方をそろえる
「説明は分かりやすく、スタッフは親切でしたか」と一度に聞くと、説明には不満でも接客には満足した人が答えにくくなります。一つの質問では一つの内容を聞きます。「説明の分かりやすさ」と「スタッフの対応」は別の質問にします。
質問には、対象と期間も必要です。「最近利用しましたか」より「過去3か月に利用しましたか」の方が、回答者ごとの解釈の違いを減らせます。利用経験がない人に満足度を答えさせないよう、利用の有無を先に聞くことも役立ちます。
答えの選択肢には、「利用していない」「覚えていない」「該当しない」が必要な場合があります。選択肢が足りないと、本当は分からない人が無理に評価を選びます。公開前に少人数に答えてもらい、言葉の意味や答え方で迷わないかを確かめます。
公開前と公開後を比較するなら、対象の選び方、質問文、選択肢、調査方法をできるだけそろえます。前は電話、後はSNSで聞いた場合、回答した人の違いが結果に混ざる可能性があります。条件を変えたら、その違いも報告します。
4 平均、割合、分母を読み分ける
5人の回答時間が1分、2分、2分、3分、12分だったとします。合計20分を5人で割った平均は4分、順に並べた真ん中の値である中央値は2分です。少数の大きな値があると、平均と多くの人の感覚が離れることがあります。
図でつかむ「80%」の分母をたどる残り80人の満足度は、この結果だけでは分かりません。
割合は、当てはまる数を全体の数で割り、100を掛けると%で表せます。このとき、割るもとになる全体の数を「分母」と呼びます。例えば、20人のうち16人なら、16÷20×100で80%です。
満足度80%という結果でも、何人に聞き、何人が答えたかを確かめます。100人に依頼し、20人が回答し、そのうち16人が満足と答えたなら、回答者の80%です。依頼した100人全体の80%が満足したとは言えません。回答した人の割合である回答率は20%です。
年代などの条件で分けて比べる集計を「クロス集計」といいます。全体の満足度が高くても、初回利用者だけが困っていることが見つかるかもしれません。ただし、あるグループが3人しかいないなら、一人の回答で割合が大きく動きます。細かく分けすぎて個人が推測されないかにも注意します。
図表には、人数、期間、単位、集計対象を付けます。棒グラフの縦軸を途中から始めると、差が実際より大きく見えることがあります。割合だけでなく元の人数も示すと、読み手が数字の意味を確かめやすくなります。
5 一緒に変わったことと、原因を分ける
暑い日に冷たい飲み物の売上と熱中症の相談が増えたとしても、飲み物が相談を増やしたとは言えません。両方に気温が影響した可能性があります。二つのものが一緒に変わる関係を「相関」、一方がもう一方の変化を起こす関係を「因果」と呼びます。
図でつかむ応募増加には、複数の理由が考えられる↓
公開後に増えた事実だけで、増加のすべてを記事の効果とは決められません。
広報記事の公開後に応募が増えても、同じ時期の求人広告、給与の変更、季節の影響があるかもしれません。「公開の後に増えた」という時間の順番だけでは、記事が原因だとは確定できません。
確かめる方法の一つに、二つの案を条件の近いグループに分けて比べるA/Bテストがあります。例えば案内文AとBを、担当者の好みが入らないよう、くじ引きなどで振り分け、同じ期間に理解を確かめます。文面のほかに対象者や配信時間まで変えると、何の違いが結果に関わったか分かりにくくなります。
比較できる条件を作れない場合もあります。そのときは、何を通じて記事を読んだか、本人への聞き取り、活動前後のデータなどを組み合わせ、広報が役立ったと考える根拠と、ほかの要因を示します。確かめられる範囲を超えて、売上や応募の増加をすべて広報の成果としないようにします。
6 目的から、測る項目を決める
目標が「新しい相談先を選べる人を増やす」なら、閲覧数に加え、具体的な相談内容を示して正しい窓口を選べるかを調べます。目標が知名度なら、社名を知っている割合を調べる方法が考えられます。取りやすい数字からではなく、相手に起きてほしい変化から、成果を確かめる項目である「指標」を決めます。
活動前に測った状態を「ベースライン」と呼びます。開始前に正しい窓口を選べた人が40%なら、いつまでに、どの対象で、どれくらいを目指すかを決めます。目標値には、過去の結果や使える予算、担当できる人数などの根拠を添えます。
使った人数や費用が「インプット」、記事の制作や説明会が「活動」です。発信した量や情報が届いた人数などは「アウトプット」と呼びます。その先で、相手の理解や気持ち、行動がどう変わったかを成果として調べます。このように分けると、何を確かめた数字なのかが分かります。理解を「アウトテイク」、行動や相手との関係の変化を「アウトカム」と呼んで分ける方法もあります。この教材の第15章では、理解をアウトテイク、態度や信頼の変化をアウトカム、適切な相談利用などをインパクトの例として整理します。名称を先に暗記するより、何を測った数字なのかを説明できることが大切です。AMECの計画と評価の説明
会社の売上や利益、社会の状態への影響まで調べる場合は、他部署のデータや長い期間が必要になることがあります。企画の規模に合う測定を選び、測れない項目は測れたように見せず、確認できなかった理由を書きます。
7 調査結果を、次の判断に使う
調査結果を報告するときは、目的、方法、分かったこと、分からないこと、次の対応を並べます。「満足度80%」だけで終わらず、「回答者は既存客が中心なので、新規客の不安は別に聞く」と書けば、次の調査につながります。
会社名を正しく答えた割合が増えても、相談先の理解が変わらなければ、目的に対する成果は限定的です。見出しで社名ばかり強調していなかったか、相談例と窓口が結び付いていたかを見直します。目標に届かなかった結果も、改善に必要な情報です。
外部の調査会社へ依頼する場合も、広報側で決めるべきことがあります。対象、知りたいこと、利用目的、公開範囲、予算、期限を伝え、募集方法、質問文、分析方法、個人情報の扱いを相談します。「良い数字が出る調査」を依頼すると、事実を調べる目的から外れてしまいます。
調査を記事にする場合は、都合の良い設問だけを抜き出して全体の結論にしないようにします。対象や募集方法、回答数、質問文を確認できる資料を用意し、推測を含む部分は推測だと分かる形で示します。
第9章 メッセージと文章をつくる
企画の目的と確かめ方が決まったら、相手に届く言葉にします。ここでは、必要な事実を選び、誤解の少ない文章にまとめる方法を学びます。
1 相手の疑問に答える
広報でいう「メッセージ」は、相手に一番伝えたいことです。例えば相談会の案内なら、「初めて車を持った人も、点検の基本を教えてもらえる」という内容です。会社が言いたいことをすべて並べると、何を覚えればよいかが分かりにくくなります。一つの発信で優先する内容を決め、必要な根拠と条件を添えます。
右列は文章の完成形ではありません。自社で確認し、説明に含めるべき材料です。
2 伝えたいこと・根拠・条件・次の手順
文章は、伝えたい要点、裏付けとなる事実、どの場合に当てはまるか、次に何をすればよいかの順で考えると整理しやすくなります。
図でつかむお知らせに必要な四つの情報4次の手順電話番号と、連絡の際に伝える事項を載せます。
架空のお知らせの組み立て例です。実際に提供できる内容を確認してから書きます。
例えば「購入後の整備について、当店の窓口で相談できます」と伝えるなら、誰が受け付けるか、どう連絡するか、相談できる内容、費用や受付時間の条件も確認します。読む人が「すべて無料」「いつでも即時対応」と受け取る余地があれば、実際のサービスに合うように書き直します。
見出しや写真の印象も説明の一部です。本文に小さく条件を書いていても、見出しが誤解を招く場合があります。見出しだけ、画像だけを見た人がどう理解するかも確認します。
「受け付けるのは平日10〜17時」は利用できる条件、「希望日を選び、フォームを送る」は次の手順です。「何の場合に使えるか」と「使うために何をするか」を分けると、書き忘れを見つけやすくなります。
3 ニュース価値を考える
報道機関や読者が情報に関心を持つ理由として、今取り上げる理由があること、新しさ、社会への影響、地域との関係、生活への役立ち方、裏付けとなるデータ、人の経験などがあります。「今取り上げる理由」を時宜性、「新しさ」を新規性と呼びます。どれか一つを満たせば必ず掲載されるわけではありません。
「当社が新サービスを始めました」という事実に対して、「誰の、どんな困りごとに関わるのか」「なぜ今、知る意味があるのか」を考えます。例えば防災用品なら、災害への備えとどう関係するかを説明できます。ただし、話題になっている言葉を付けるだけでは、取り上げる理由にはなりません。実際にどんな役に立つのかを確かめます。
地域との関係を見るときは、その地域の人の生活にどう関わるかを考えます。例えば「買い物が難しい地区へ週二回、移動販売車が行く」なら、地域の暮らしとの関係を説明できます。「新型車を導入した」という新しさとは別の観点です。
4 プレスリリースの基本構成
プレスリリースは、組織が報道機関などに向けて公表する公式資料です。自社サイトや配信サービスを通じ、一般の人にも読まれます。
図でつかむプレスリリースは、最初に要点、その後に詳しい説明4資料と連絡先会社概要、根拠となる資料、問い合わせ先。
読み手は上から順に、発表の要点、利用条件、確認先をつかめます。
- 発表日と、発表する会社・団体名。
- 何が起きるかが分かるタイトル。
- 誰が、何を、いつ、どこで行うかをまとめた冒頭。
- 背景と、対象者にとっての意味。
- 実施内容、特徴、根拠となるデータ。
- 対象、価格、申し込み方法などの条件。
- 会社概要、問い合わせ窓口、参考資料。
最初に全体像が分かり、その後で詳細を確認できる順序にします。「画期的」「圧倒的」といったほめる言葉を重ねるより、何が変わったかを具体的に書きます。
5 note記事との使い分け
noteでは、担当者の経験、背景、仕事の過程を丁寧に説明できます。プレスリリースでは、公式発表として要点と条件を素早く確認できることが大切です。同じ話題でも、目的に合わせて構成を変えます。
例えば新サービスの開始はリリースで知らせ、企画した背景や現場の試行錯誤はnoteで補足できます。サービス条件の最新版をどこで確認できるかも示すと、古い記事が残っていても案内しやすくなります。
過去の体験談に旧条件が出てくる場合は、当時の条件だと分かる説明を付け、現在の案内へリンクします。体験談の条件だけを今のものに差し替えると、当時もその条件で利用したように見えるためです。経験の記録と、今使うための案内を分けて残します。
6 現場への取材で説明の材料を得る
「こだわりを教えてください」と聞くと、「一台一台丁寧に作業しています」といった抽象的な答えになることがあります。そこで、直近の具体的な仕事について聞きます。どんな状態で持ち込まれ、何を確認し、どの選択肢から判断したのかを順に尋ねます。
例えば、整備担当者が部品交換を勧めた場面なら、「交換が必要だと判断した箇所はどこか」「交換しないと何が起こり得るか」「今すぐ必要な作業と、次回でもよい作業をどう分けたか」を聞きます。担当者の判断過程が分かると、読者にも仕事の中身を伝えられます。
インタビューでは、相手の言葉をきれいに整えすぎないことも大切です。ためらいや条件付きの説明を、断定的な成功談に変えると意味が変わります。「この条件では改善が見られた」を「必ず改善できる」に直すことは、表現の調整の範囲を超えています。
録音やメモの利用について説明し、公開前に事実や発言で伝えたかったことを確認します。確認の依頼では、読みやすさ、専門的な事実、公開してよい内容のどれを見てほしいかを伝えます。修正が入った場合は、他の説明と矛盾していないかも見直します。
7 プレスリリースの冒頭を具体的に書く
次は、架空の相談会について、要点を短く示す例です。
青葉モーターズは、11月14日、初めて輸入中古車を所有する人を対象に、日常点検の基本を学ぶ予約制の相談会を本店で開きます。購入店を問わず参加でき、整備担当者がタイヤや警告灯の確認方法、異常時の相談手順を説明します。参加は無料で、当日の修理作業は行いません。
ここには、発表する会社名、実施内容、日時、場所、対象、参加者にとって役立つ点、主な条件が含まれています。その後に、開催の背景、プログラム、定員、所要時間、申し込み期限、駐車方法、問い合わせ先を続けます。実際の発表では、日付などすべての条件を確認する必要があります。
背景として書く内容にも根拠が必要です。「若者の車離れが進む中」といった大きな社会状況を付ける前に、今回の活動と本当に関係するかを考えます。自社に寄せられた質問から始まったなら、その経緯を正確に説明すれば十分な場合があります。確認していない全国的な傾向を作る必要はありません。
写真にも役割があります。会場や担当者、説明する工程が分かる写真は、読者が内容を想像する助けになります。撮影した日、写っているもの、使用上の条件を説明できるようにします。実際と異なる会場や生成画像を、開催風景のように扱わないことが必要です。
8 読み物では結果に加えて経験や経緯を伝える
読み物に載せると決めたら、出来事の経緯から、読者の参考になる判断や工夫を選びます。
noteのような読み物では、なぜ取り組みが始まったか、途中で何に迷ったか、どう判断したかを詳しく扱えます。読者は結果だけでなく、その会社がどのように考えて仕事をするかを知ることができます。
例えば「相談会を開催します」という告知に対し、「初めての所有者から、警告灯が点いたとき何をすればよいかという相談が寄せられた。現場では電話で状況を聞くたび、基本的な確認を一緒に学ぶ場が必要ではないかと話していた」という経緯を加えると、企画の理由が伝わります。ただし、実際に聞いていない会話や経験は創作しません。
読み物でも、申し込みや取引に関わる事実は明確にします。経緯を説明する文章の中に条件を混ぜると、日時や費用を見つけにくくなります。背景を読む部分と、参加に必要な事項を確認する部分を分けると、読みたい人と利用したい人の両方に対応できます。
二つの案で迷った経緯なら、それぞれの良い点と困る点、最後に何を重視して選んだかを説明します。完成した写真や参加人数だけでは、その判断の理由は伝わりません。
9 短くすることと説明を省くことは違う
「点検無料」と大きく書き、実際には特定の項目と車種だけが対象だった場合、短い文ほど強く誤解されることがあります。短くする際は、対象者や費用など、利用するかどうかの判断に関わる条件を残します。「対象車種の指定項目を無料で確認」としたうえで、詳細に進めるようにする方法があります。
専門用語には、言い換え、説明、具体例のいずれかを添えます。ただし、正確な用語をすべて削ると、必要な区別が失われることもあります。まず普段の言葉で説明し、その後に正式な名前を添えると読みやすくなります。例えば「何人に届いたかを表す数値を、リーチと呼びます」のように書きます。
読みやすさを確かめるには、その仕事を知らない人に読んでもらい、「何をする案内か」「自分が対象か」「次に何をするか」を説明してもらう方法があります。分かりやすいと思うかを尋ねるだけより、どこで理解がずれたかを見つけやすくなります。
リーチと似た言葉も分けて説明します。「インプレッション」は表示された回数、「エンゲージメント」は、いいねやコメントなどの反応です。届いた相手の数、表示の回数、反応の数は、それぞれ別に数えます。実際の集計方法は媒体によって異なるため、利用するサービスの説明を確認します。
第10章 報道機関との関係と取材対応
1 記者の仕事を理解する
記者は、自社の宣伝だけを目的に取材しているわけではありません。読者や視聴者に必要な情報を集め、検証し、編集部の判断に沿って伝えます。疑問や批判的な質問が出ることもあります。
広報担当者は、新聞、雑誌、テレビ番組などが扱う話題や読者・視聴者を調べ、その取材に役立つ事実、資料、取材先を提案します。相手の記事を読まずに同じ売り込み文を大量送信したり、掲載を何度も催促したりすると、記者と継続してやり取りしにくくなります。
2 情報提供から掲載後まで
最初に、その媒体がどんなテーマを誰に届けているかを確認します。次に、情報の要点と、その媒体の読者に関係する理由を短く伝えます。取材が決まったら、日時、場所、登場者、撮影条件、締め切り、提供資料を調整します。
図でつかむ取材は、当日の受け答えだけではない記事の内容を決めるのは記者や編集部です。誤りがあれば、根拠を添えて訂正を相談します。
取材前には、伝えるべき事実、質問されそうな点、回答者、確認が必要な事項をまとめます。終了後は、追加資料と未回答の質問に対応し、掲載後は内容を記録して社内に共有します。
未回答の質問は、質問の内容、確認する担当者、回答期限を一緒に記録します。「去年と今年の同じ期間の販売台数」を求められたなら、何月から何月までかもそろえます。年間の総数が手元にあっても、求められた期間の数字とは限りません。
3 答えられないときの対応
質問されたら、答えられる状況に応じて次のように対応します。
図でつかむ答えられない理由によって、次の対応を変える↓
まだ調べていない担当者に確認し、連絡する時刻を伝える。
公表できない話せる範囲で理由と、代わりに伝えられる情報を示す。
「分からない」と「知っているが公表できない」は違います。あてずっぽうでは答えません。
- 確認できている事実は、その範囲を明確にして答える。
- 未確認の事実は、確認先と回答予定を決めて折り返す。
- 個人情報や契約上の制約などで答えられない事項は、説明できる理由と、代わりに提供できる情報を伝える。
例えば「今は正しい数字を確認できていません。担当者に確かめ、本日17時までに、回答できるかどうかも含めてご連絡します」と答えます。約束した時刻までに結論が出なければ、進捗と次の連絡時刻を知らせます。
4 記事の確認・情報解禁・オフレコ
取材を受けた会社が、掲載前の原稿を必ず確認できるわけではありません。取材前に確認可能な範囲を相談し、事実の誤りを直す依頼と、記事の評価や主張を変えてほしいという要求を区別します。掲載後の誤りは、該当箇所と正しい事実、根拠を示して訂正を相談します。
前もって渡した情報を公表してよい時点を迎えることを「情報解禁」と呼びます。「この日時までは公表しないでほしい」と相手と約束する取り決めが「エンバーゴ」です。送信側が一方的に日時を書くだけで成立したと考えず、相手の合意を確認してから提供します。
「オフレコ」は、取材で話す内容をそのまま記事にしないことなどを、事前に取り決めるものです。どこまで記事にしてよいか、名前を出してよいかなどの意味が人によって違うことがあるため、話す前に相手と条件を確認します。後から「今の発言は書かないでください」と言っても、受け入れられるとは限りません。未公表情報や個人情報は、取材前に、何を話してよいか確認しておきます。
5 媒体によって必要な材料が違う
新聞や通信社では、社会や地域の出来事として何が新しいか、どこまで裏付けられるかが問われます。特定の業界を扱う新聞や雑誌では、技術の変化や、商品がどの会社を通って売られるかが話題になります。商品が取引される道筋を「商流」と呼びます。テレビでは、説明に加えて、撮影できる動きや場所、登場する人が必要になることがあります。
例えば、技術の改善を発表する場合、専門媒体には測定条件や比較資料、テレビには実際に作業している工程や結果が分かる映像が役立つかもしれません。同じリリースを送っても、追加で求められる材料は変わります。媒体の名前だけでなく、担当者が継続して扱っているテーマを調べます。
ただし、撮影のために現場の安全や利用者の権利を犠牲にしません。立ち入り範囲、撮影できない画面、顧客の写り込み、作業を止められる時間を事前に相談します。番組に出るためなら何でも協力するという姿勢は、現場に過度の負担をかけます。
6 記者が取材するか判断できる情報を伝える
記者への最初の連絡では、何が新しいのか、なぜその媒体の読者に関係するのか、何を取材できるのかを簡潔に伝えます。会社のこれまでの歩みや商品の特徴を長く並べる前に、提案の要点が分かるようにします。
例えば「新しい相談会を開催します」だけでなく、「初めて輸入車を所有する人から寄せられる相談をもとに、異常時の連絡手順を学ぶ場を開く。企画担当者と整備担当者を取材できる」と説明します。実際に取材可能か、資料を出せるかは社内で確認しておきます。
返事がない場合には、締め切りや送付内容を確認する一度の連絡が役立つこともあります。しかし、相手が関心を示していないのに毎日催促しても、情報の価値は高まりません。取り上げられなかった理由が、読者との関係、時期、他のニュース、資料不足のどこにありそうかを振り返ります。理由が確認できない部分は、推測として扱います。
7 厳しい質問にも、一つずつ事実を確認して答える
記者から「説明と実際の対応が違うのではないか」と聞かれたとき、まずどの説明とどの事例を指しているかを確認します。質問を敵意と決め付けると、必要な事実確認が進まなくなります。指摘が正しければ、何が起きたかと対応を説明し、誤りがあれば資料を示して訂正します。
質問に答えることと、自社のメッセージを伝えることは両立できます。ただし、聞かれたことに答えず、用意した宣伝文句だけを繰り返すと、不信を招く場合があります。答えられる部分を先に説明し、未確認の部分は何を調べているかを伝え、非公開の部分は話せる範囲で理由を説明します。
新聞倫理綱領では、正確・公正な報道と、外部からの干渉に左右されない独立性が掲げられています。広報担当者は、自社の希望どおりの記事になるとは考えず、記者が事実を確かめるために必要な情報を提供します。日本新聞協会の倫理綱領
8 経営者の取材では個人の考えと会社の方針を整理する
経営者の経験や言葉は、会社の考え方を伝える重要な材料です。一方、本人が思い付きで語った計画が、会社の決定事項として受け取られることもあります。取材前に、決定したこと、検討中のこと、本人の見通しを分けます。
売上や出店、採用などの将来計画には、社内調整や取引先との合意が関わる場合があります。公表できる範囲を確認し、どの前提に基づく考えかを説明できるようにします。予定を実績のように語ったり、期待を保証のように伝えたりしないことが必要です。
取材後には、重要な約束や未回答の質問を記録します。経営者本人が追加対応を覚えていると期待せず、広報担当者が整理して確認します。発言を広報がすべて決めるのではなく、本人が正確に説明できる材料をそろえるのが準備の目的です。
追加資料を送る約束をしたら、何を送るか、誰が内容を確認するか、いつまでに送るかを記録します。掲載してほしい日や見出しを決めても、資料を間に合わせる準備にはなりません。
第11章 SNSとオウンドメディアを運用する
1 媒体ごとの役割を決める
会社が自分で内容を決めて発信するサイトやブログなどを「オウンドメディア」と呼びます。ここでいう「媒体」は、情報を届ける場所や方法のことです。新聞、テレビ、Webサイト、SNSなどが当てはまります。SNSアカウントも自社で運用できますが、表示や機能、利用条件は、SNSのサービスを提供する会社の決まりに左右されます。
例えば、公式サイトでは料金や問い合わせ先を案内し、noteでは仕事の背景や考え方を詳しく伝えます。SNSは会社を知ってもらう入口や会話の場にし、メールは希望する人への定期的な案内に使う、といった分け方ができます。どの媒体にも同じ文章を載せるだけでなく、読まれる状況に合わせて内容を調整します。
2 PESOで情報が届く経路を整理する
同じ新商品の話でも、会社が広告を出す、記者が記事を書く、お客さんがSNSで紹介する、会社のサイトに載せる、という届け方があります。誰がお金を払い、誰が内容を決めるかが違います。これを四つに分けて考えるのがPESOです。
図でつかむ一つの出来事にも、四つの届け方がある↓
Earned:報道・紹介記者などが自分の判断で取り上げる。
Shared:共有・会話利用者が投稿を共有したり話したりする。
Owned:自社の媒体会社が公式サイトなどで説明する。
教材独自の整理図です。一つの投稿に、広告配信と利用者による共有が重なる場合もあります。
PESOは、Paid・Earned・Shared・Ownedの頭文字です。四つの媒体を組み合わせて考えるPESO Model®は、Gini Dietrich氏が提唱し、Spin Sucksが紹介しています。ここでは初心者向けに、四つの区分の意味と確認事項を独自の例で整理します。公式の図や研修教材を転載・翻訳したものではありません。Spin SucksによるPESO Modelの説明
この整理は、AMECが示す、広報の成果を確かめる手順でも用いられています。同じ投稿でも、有料配信や第三者の共有が加わるなど、複数の区分に関わることがあります。参考資料4
3 投稿後の確認や返信の担当も決める
投稿には、承認、予約、返信、訂正、情報更新の作業が伴います。誰が何時に確認するか、質問をどこへ引き継ぐか、担当者不在時に誰が対応するかを決めます。
過去投稿と予約一覧も確認します。同じ内容の繰り返し、終了した催しの案内、すでに変更された価格の紹介を防ぐためです。紹介する商品や車両が一つずつ異なる場合は、名称だけでなく、一つずつ付けた管理番号、掲載ページのアドレス、画像なども比べて確かめます。
4 批判や苦情への向き合い方
批判を受けたら、事実への問い合わせ、体験に基づく苦情、誤情報、侮辱や脅迫などを区別します。利用者の不満に対しては内容を確認し、必要な説明や改善につなげます。個別の契約や個人情報が関わる部分は、適切な窓口へ案内します。
公開返信では、他の人もやり取りを読むことを意識します。都合の悪い意見を一律に削除すると、説明を避けていると受け取られることがあります。削除や非表示は、公開した運用方針や媒体のルールに沿って判断し、必要な記録を残します。
5 読者が情報を見つけてから行動するまでを考える
SNSで初めて会社を知った人が、その場で申し込むとは限りません。プロフィールを確認し、サイトで内容を読み、費用や条件を調べ、後日もう一度検索するかもしれません。各媒体を独立した投稿置き場として考えると、この途中で必要な情報が見つからなくなります。
図でつかむ読者が迷わず申し込めるか、順にたどってみる相談会の架空例です。実際には途中で戻ったり、後日検索したりする人もいます。
例えば、相談会の写真は魅力的でも、申し込み先がプロフィールの古いリンクにしかなければ迷います。記事に日時はあっても満席かどうかが分からなければ、問い合わせが増えるかもしれません。どこから来ても、最新の条件と次の手順にたどり着けるようにします。
変更されやすい条件は、確認先を決めて管理します。価格や受付状況を複数の場所に載せる場合は、更新漏れを防ぐ担当と記録が必要です。古い記事を削除するか残すかは、その記事の価値と誤解の可能性を考え、必要に応じて更新日や現行情報への案内を付けます。
6 日々の発信に偏りがないかを考える
毎回商品の写真だけを出していると、商品を探している人には役立っても、購入後の対応や会社の考え方は伝わりにくくなります。反対に、経営者の思いだけでは、具体的な利用方法が分からないことがあります。
「どんな役に立つか」「どう作っているか」「誰が働いているか」「どう利用するか」「よくある質問」「取り組んだ結果」に分けて、過去の投稿を見直します。説明していない話題を見つけやすくなります。これは投稿の種類を機械的に均等にするための分類ではありません。現在の課題に合わせて、説明の重点を選ぶための整理です。
例えば新規の利用者が増えた月は、受付や予約、相談範囲の説明を詳しくします。採用期間には、仕事の実態や職場での協力を扱います。商品が増えない週でも、利用者が判断するための情報はあります。題材がないと感じたら、現場に寄せられる質問を見直します。
7 フォロワー数だけでは成果を判断できない
投稿を続けて受け取る登録をした人を「フォロワー」と呼びます。遠方の人に動画が広く届いても、地域で利用する人に知られていない場合があります。逆に、フォロワー数が少なくても、取引先や専門家が継続して読んでいれば、目的に合った関係ができているかもしれません。数に加えて、誰に届き、何が理解されたかを確かめます。
反応が大きかった投稿に合わせて内容を変え続けると、本来説明したかったことから離れる場合があります。面白い動画の再生回数が増えるので、そればかり作り、利用条件や仕事の専門性を説明しなくなる、といった状況です。反応の良い形式を使いながら、必要な情報も届く構成を考えます。
SNSで会社を知ってもらうことは大切ですが、表示の仕組みや利用条件を自社で決めることはできません。重要な案内や資料を確認できる場所、アカウントが使えない場合の連絡手段を用意しておくと、運用を続けやすくなります。
8 返信の内容と担当を決めておく
公式アカウントの返答は、読む人には「会社からの回答」として伝わります。商品の状態や契約に関する質問に、運用担当者がその場の判断で答えると、正式な条件と食い違う可能性があります。通常の返信、担当部署への確認、個別窓口への引き継ぎの基準を決めます。
親しみやすい言葉遣いを採用しても、すべての相手が同じ距離感を望むわけではありません。相談や苦情に対して普段と同じ冗談で返すと、深刻に扱っていないと受け取られることがあります。言葉遣いの方針を決める際は、相談や苦情にどう答えるかも考えておきます。
また、利用者が投稿した写真を公式アカウントで紹介する場合は、共有方法と利用条件を確認します。投稿が見られる状態にあることを、自社の広告や別媒体への転載の許可と同じに扱わないようにします。写真に写る第三者にも注意が必要です。
第12章 社内広報と部門間の連携
1 社内にも説明が必要
新サービスをSNSで発表したのに、問い合わせを受けた店舗スタッフが内容を知らなければ、利用者は混乱します。社外への発表前に、業務に関係する従業員が必要な情報を理解し、対応できるようにします。
社内に知らせるときは、「何が、いつから変わるか」「なぜ変えるか」「誰の仕事に関係するか」「現場で何をするか」「どこに質問するか」を伝えます。「共有済み」と「理解して対応できる」は別なので、現場からの質問も確認します。
理解を確かめるには、実際にありそうな問い合わせを示し、スタッフに答え方を説明してもらいます。メールを開いたか、資料を保存したかは、情報を受け取ったことの確認です。内容を使って対応できるかは、別に確かめます。
2 事実確認と公開承認を分ける
事実確認は、商品、数値、制度などが正しいかを担当者が確認することです。「公開承認」は、会社が正式に「この内容を今、公表してよい」と決めることです。内容が正しくても、発表日がまだ先だったり、取引先と調整が必要だったりすることがあります。
図でつかむ二つの確認は、確かめる内容が違う事実確認「この数字や説明は正しい?」
内容を知る担当者が、記録や条件と照らし合わせる。
公開承認「この内容を今、公表してよい?」
会社の責任者が、発表時期や約束も含めて判断する。
一人が両方を担当する場合も、確認する項目は分けます。社長の承認だけで数字の確認を省きません。
例えば整備担当者は作業内容を確認し、経営者は会社として公表できる内容かを承認します。写真の使用許可や個人情報の確認には、別の担当者が必要な場合もあります。確認項目と担当者を分けると、「承認者が技術的な誤りまで確認してくれるはずだ」という思い込みを防げます。
3 顧客などの反応を現場と経営者に伝える
「SNSで批判がありました」だけでは、社内で判断しにくくなります。何について、誰から、どのような指摘があり、確認できた事実は何か、どんな対応が必要かをまとめます。投稿だけを見て、年齢や職業、実際の利用者かどうかを決め付けないようにします。
広報担当者は、会社が期待する反応と実際の反応が違う場合も、その違いを報告します。社外に情報を伝えるだけでなく、相手の疑問も社内に伝えることが、双方向のコミュニケーションには必要です。
寄せられた声を社内に伝えた後は、手順を変えたか、追加の説明をするかなどの検討結果も相手へ返します。例えば料金の不安を聞いて案内を直したなら、どこを直したかを知らせます。記録を社内に残すだけでなく、相手がその後の対応を知れるようにします。
4 社内で知らされる順番にも意味がある
自分が働く店の閉店や、担当サービスの変更を、顧客から先に聞いたらどう感じるでしょうか。内容への不安に加えて、会社から大切にされていないと感じるかもしれません。従業員は説明を受ける相手であると同時に、利用者から質問される人でもあります。
社外発表の前に、関係する人へ必要な情報を知らせる段取りを考えます。ただし、未公表情報の管理、取引先との取り決め、必要な開示などによって、全員に事前共有できるとは限りません。事前に知らせられない場合も、発表と同時に説明を受けられるか、直属の上司が質問に対応できるかを準備します。
経営者の説明資料をそのまま配れば足りるとも限りません。経営者の資料は事業の方向性が中心でも、現場の従業員は自分の仕事への影響を知りたい場合があります。「今後の成長に向けて体制を強化する」という説明に、誰が担当し、どう引き継ぐか、評価や勤務場所はどうなるかを加えると、従業員は何をすればよいか理解しやすくなります。
5 方針を伝えた後も、現場の疑問や困りごとを聞く
新しい予約制度を社内に発表し、説明会も開いたとします。それでも現場で旧制度の案内が続く場合、従業員の理解不足だけが原因とは限りません。システムが使いにくい、例外対応が分からない、顧客への説明時間が確保できないといった問題があるかもしれません。
図でつかむ社内説明も、配って終わりにしない↶ 分かったことを、次の取り組みに戻す
同じ資料を送り直すより、使いにくい手順そのものを変えた方がよいこともあります。
そこで、どの場面で困っているかを聞き取ります。質問をまとめて回答し、必要なら手順や制度を修正します。説明の再送だけで解決する問題と、業務側の改善が必要な問題を分けることが大切です。
意見を伝える方法も複数あると役立ちます。全員参加の場では質問しにくい人もいれば、直属の上司には言いにくいこともあります。匿名の質問、少人数の対話、個別の相談などを目的に合わせて使います。匿名で集める場合は、誰が回答を読めるか、どこまで名前を知られずに相談できるかも正確に説明します。
6 採用広報では良い面と仕事の条件を一緒に扱う
社員の笑顔や社内イベントだけでは、どんな仕事をするかが分からない場合があります。応募者は、業務の内容、求められる能力、学ぶ方法、忙しい時期、相談できる相手、働く条件を判断したいと考えています。
例えば「未経験でも活躍できる」と伝えるなら、どの範囲を未経験から学べるのか、誰が教えるのか、独り立ちまでに何を身に付けるかを説明します。実際には経験が必要な業務を含むなら、その区別も必要です。採用数が増えても、期待と実態の違いで早期の退職が続けば、発信内容を見直す理由になります。
社員インタビューでは、会社が望む理想の職場像を、本人の体験であるかのように話してもらわないことも重要です。特定の人の経験を全社員に共通する制度のように見せず、制度と個人の働き方を区別します。掲載への協力が職場の力関係によって事実上強制されないよう、依頼方法や本人の意思にも配慮します。
7 組織の変化を説明する
会社の名前や社長が変わるとき、利用者は「今までどおり使えるのか」が気になります。会社が伝えたい抱負だけでなく、相手の仕事や生活に何が変わるかを説明します。
社名の変更、次の世代に事業を引き継ぐ事業承継、経営者の交代、他社と会社を一つにまとめる場合などでは、会社にとっての意味と、相手にとっての影響が違います。経営者の交代を「新たな挑戦」と表現しても、顧客が知りたいのは、契約、窓口、担当、サービスがどうなるかかもしれません。
変わること、変わらないこと、まだ決まっていないことを分けて説明します。将来の方針を語る際も、従業員の仕事や取引先の扱いについて、未決定の内容を安心材料として約束しないようにします。「心配はありません」と言い切るより、現在の決定事項と、今後の説明予定を示す方が誠実な場合があります。
第13章 法律・権利と、信頼を守るための基本
1 誤解を招く表現を防ぐ
商品やサービスの品質、性能、価格、取引条件を、実態より著しく良く見せる表示は問題になります。「必ず」「完全」「最安」「No.1」といった表現を使う際は、根拠、比較範囲、時点、条件を確認します。具体的な表現を使ってよいかは、消費者庁の景品表示法の資料を読み、自社の担当者にも確認します。参考資料5
根拠のある数字でも、対象の一部だけを示して全体の実績のように見せると誤解につながります。平均と最高値、購入者と回答者、税込みと税別、車両本体価格と購入に必要な総額など、何を表している数字かを明示します。
2 広告であることを分かるようにする
日本では2023年10月1日から、広告であることを一般消費者が判別しにくい表示が、景品表示法の規制対象となっています。この規制では、自分の商品やサービスの宣伝内容を決めることに関わった会社などが対象になります。参考資料6
SNSなどで多くの人に情報を届ける発信者を「インフルエンサー」と呼びます。商品紹介を頼むときは、お金を払ったかだけでなく、商品を渡したか、何を頼んだか、会社が投稿内容にどこまで関わったかを確認します。広告に当たる場合は、表示全体を見て広告だとはっきり分かる必要があります。返信欄だけに表示したり、「PR」の文字を見つけにくい位置に置いたりしても十分とは限りません。参考資料7
3 写真・文章・音楽などの権利
他人の写真や文章を別の場所に載せることを「転載」と呼びます。インターネットで誰でも見られるものでも、自由に自分のサイトや資料へ転載できるとは限りません。誰が権利を持ち、どんな使い方を認めているかを確認します。使う許可を「許諾」、利用のルールを「利用規約」と呼びます。自社サイトに載せてよいか、画像を切り抜いてよいか、いつまで使えるかなども確かめます。元の作品名や作者などを示す「出典」を書くだけで、すべての転載が認められるわけではありません。自分の説明の中に必要な範囲で他人の作品を示す「引用」など、法律で認められた使い方をする場合も、その条件を確かめます。参考資料8
図でつかむ写真一枚でも、確認する相手や条件は複数ある↓
写真を撮った人などどんな媒体・用途で使ってよいか。加工してよいか。
写っている人顔や名前、私生活の情報を出してよいか。
背景や利用ルール伝票や画面の写り込み、場所やサービスの規約を確認。
出典を書くだけでは、使用許可の代わりになりません。必要な確認は写真や使い方によって変わります。
撮影者から写真の使用許可を得ていても、写っている人の顔や姿を公表してよいか、私生活の情報を明かしていないかも、別に確認が必要なことがあります。この教材では、人物を紹介する写真や顧客事例を載せる際、媒体、内容、使い方を本人に説明し、必要な同意を記録する方法を基本とします。
4 個人情報と秘密情報
広報の仕事では、名前、顔写真、連絡先、買った物の記録、相談の内容などを扱う場合があります。誰の情報か分かるものは、公開してよいか特に注意が必要です。必要な情報だけを利用し、利用目的、公開範囲、保存先、共有相手を確認します。個人情報保護の基本事項は、個人情報保護委員会の資料で確認できます。参考資料9
車両や店舗の写真にも、顧客名、伝票、住所、画面の通知、位置が分かる情報などが写り込む場合があります。未公表の商品、契約、取引先の情報についても、公開してよい範囲を担当部署に確認します。
5 信頼を損なわない行動
実在しない顧客の声を作る、社員が一般客を装って高評価を書く、不都合な数字を隠す、取材への謝礼で記事内容を誘導する。こうした行動をすると、読む人は事実と違う内容を信じて、買うかどうかを決めてしまいます。
社会や環境への取り組みについても、活動の範囲、実績、限界を説明します。一つの活動だけを根拠に、会社の事業全体が環境に良いように表現することは避けます。日本パブリックリレーションズ協会のガイドラインも、人の権利を大切にすること、法律などの決まりを守ること、公平に活動することなどを、仕事で守る基本として示しています。参考資料10
6 法令に違反しないことと信頼されることは同じではない
法的に使える表現かを確認することは必要です。しかし、形式的な条件を満たした表現でも、相手に誤った期待を与える場合があります。例えば、目立つ見出しで大きな効果を示し、本文の末尾に重要な制約を置けば、読者は制約に気付かないかもしれません。
広報では「注意書きは入っているか」に加えて、「この表示全体から、普通の読み手はどう理解するか」を考えます。相手が誤解すると分かっていながら、読めば書いてあると主張する姿勢は、長期的な信頼を損なう可能性があります。法律の確認と、相手の理解を確認する作業の両方が必要です。
No.1や比較表現を使うなら、何を比べ、どの条件で調べたかを確かめます。小さな対象の調査結果を、業界全体の順位のように見せないことが必要です。実際の表示に問題がないかどうかは、最新の公式資料と具体的な条件に基づき、専門担当者へ確認します。
7 同意や許諾は利用範囲まで確認する
イベントの記録用として写真を撮ることと、その写真を広告のメイン画像に使うことは、写る人にとって意味が違います。取材時に受けた同意が、別の商品や別媒体での利用まで含むとは限りません。何に、どこで、どの期間使うかを明確にします。
外部の撮影者に依頼した写真も、料金を払ったからすべて自由に使えるとは限りません。納品するデータ、加工、広告利用、第三者への提供、利用期間などを契約で確かめます。後で別の用途に広げる場合は、元の契約や同意を見直します。
インタビューの原稿にも、本人の経験、会社の機密、取引先の情報が混ざる場合があります。本人が話したことでも、会社が公開してよいとは限りません。登場者の確認だけでなく、必要な担当部署や関係先の確認を進めます。
8 AIを使う場合も確認責任は残る
AIは、見出し案、構成、要約、想定質問などを考える補助に使えます。しかし、もっともらしい誤りや、元の発言より強い断定が混ざる場合があります。読みやすい文章であることを、内容が確認済みである証拠にしないようにします。
図でつかむAIで作った文章も、公開前の確認は人が行う自然な文章でも、事実が正しいとは限りません。秘密の情報を入力する前にも、会社のルールを確認します。
顧客の相談履歴、社員の個人情報、未公表の計画などを外部サービスへ入力する場合は、自社の方針、契約、利用条件、情報の取り扱いを確認します。担当者が使いやすいことだけを理由に、公開範囲を広げることはできません。
生成した画像や文章についても、他者の権利、事実との混同、実際の提供内容との違いを確認します。存在しない社員を実在の担当者として紹介する、架空の体験を顧客の声として載せる、といった使い方は受け手の判断を誤らせます。図解やイメージとして使う場合も、その役割が分かるようにします。
9 社会課題について発言するときの考え方
社会的な出来事に対して、会社の意見を求められる場合があります。発言するかどうかは、その課題と事業の関係、会社の方針、関係者への影響、実際に行っていることを踏まえて判断します。話題になっているから同調するという決め方では、過去の行動との矛盾を見落とすことがあります。
例えば環境への配慮を強調する場合、取り組んでいる範囲、測定した結果、まだ解決していない課題を整理します。小さな活動を会社全体の成果に拡大して語ると、誇張だと受け取られる可能性があります。取引先や顧客の行動まで、自社だけの成果として扱わないことも大切です。
発言を控える判断でも、社内での検討が不要になるわけではありません。事業に直接関係する人権や安全の問題について、説明を避けることで不信を招く場合があります。会社が対応すべき問題を確認したうえで、何を公表し、社内で何に取り組むかを決めます。
第14章 不具合や事故が起きたときの広報
1 まず被害と混乱を抑える
事故や不具合、秘密にするべき情報が外へ出る「情報漏えい」などが起きたときは、被害を受ける人の安全と必要な対応を優先します。現場や責任者は、けが人を助ける、危険なサービスの提供を止める、専門機関へ連絡するといった対応をします。広報は、その対応に合わせて必要な情報を伝えます。
広報担当者は、「何が起きたと分かっているか」「誰が困っているか」「会社は今、何をしているか」「利用者は何をすればよいか」をまとめます。原因が分からない段階で推測を公表すると、後の訂正によって混乱を広げる場合があります。
2 問題が起きた直後に確認すること
問題が起きてから最初に行う対応を「初動」といいます。慌てて文章を書く前に、次の五つを確かめます。
図でつかむ原因が調査中でも、先に伝えられることがある↓
安全上の問題を伴わない架空例です。「原因は調査中」と伝え、推測で穴を埋めないようにします。
- 何が、いつ、どこで起きたと確認できているか。
- 誰に、どのような影響があるか。
- 被害を抑えるため、何を実施しているか。
- 利用者は何をすればよいか。問い合わせ先はどこか。
- 何が未確認か。次の情報をいつ、どこで出すか。
何が起きたかすべて分かっていなくても、確認できたことを先に知らせる必要があります。例えば危険があるなら、原因の調査が終わる前でも、利用者に使用を止めてもらう案内が必要になる場合があります。発表までの時間を一律に決めるより、危険性、影響範囲、法律などで必要とされる連絡、社内で対応できる人や手順に合わせて判断します。
3 最初のお知らせの架空例
本日10時ごろ、当店の予約フォームで送信できない不具合を確認しました。現在、原因と影響範囲を調べています。予約を希望される方は、電話窓口をご利用ください。次回の状況は本日15時までに公式サイトでお知らせします。ご不便をおかけし、申し訳ございません。
この例は、個人情報の流出や安全上の問題を伴わない予約フォームの不具合を想定しています。別の事故にそのまま流用せず、影響、案内先、連絡時刻を実際の状況に合わせます。
このお知らせで確かめられているのは、送信できない不具合があることと、電話で予約を受けることです。原因はまだ調査中です。また、「15時までに知らせる」は次の連絡の約束で、15時に復旧するという意味ではありません。直っていなくても、その時点の状況と次の案内予定を伝えます。
4 謝罪と訂正
謝罪する場合は、何について、誰に対して謝るのかを明確にします。「お騒がせしました」だけでは、被害や不便に触れられません。確認できた事実と対応を説明し、原因や責任が未確認の部分は分けて扱います。
誤った情報を公表した場合は、影響に応じて、誤りの箇所、正しい情報、訂正日時、必要な対応を知らせます。黙って書き換えるだけでは、すでに読んだ人に届きません。削除が必要な個人情報などは速やかに非公開化し、公開を続ける情報と内部で保存する記録を分けます。
5 問題が起きる前に準備すること
緊急時に連絡する相手、対応を決める人、会社を代表して説明する人を決めます。休日や夜間にも連絡できるか、公式サイトやSNSを更新できる人がいるかも確かめます。想定する事故について、誰が事実を集め、誰が対応を決めるかを確認しておくと、発生後の調整を減らせます。
通常の宣伝投稿や予約投稿も、事故や災害時には実施を見直します。状況に合わない投稿を続けないよう、停止を判断する担当者を決めておきます。
会社を代表して説明する人を「スポークスパーソン」と呼びます。事実を集める人、対応を決める人、外部へ説明する人は、役割が違います。同じ人が兼ねる場合も、何を確認してから説明するかを決めておきます。
6 個別の苦情と重大な危機で対応を分ける
商品の配送が一件遅れたという苦情と、多数の商品に安全上の不具合が見つかった事態は、必要な対応が異なります。前者でも丁寧な対応は必要ですが、すべてを会見や大規模発表にするとは限りません。後者では、問い合わせた人だけに答える対応では、影響する利用者に必要な情報が届かない可能性があります。
判断では、件数のほか、生命や身体への影響、拡大の可能性、事業の継続、関係者の範囲、法令や契約上の必要な対応を確認します。SNSで話題になったかどうかだけを基準にすると、まだ目立っていない重大な問題を見落とします。
一つの苦情でも、同様の問題が繰り返されていれば、制度や現場の仕事の進め方に原因があるかもしれません。日常の問い合わせ記録は、危機を防ぐための情報にもなります。広報、顧客対応、現場、経営の間で、どんな変化や問題があれば互いに知らせるかを決めておくと役立ちます。
7 原因・対応・責任を分けて説明する
原因が未確認でも、提供を止めた、連絡窓口を増やした、対象者への案内を始めた、という対応は説明できる場合があります。原因が分からないことを理由に、現在の対応も何も知らせないと、利用者は自分が何をすべきか分かりません。
図でつかむ「分かっていない」を「起きていない」に変えない調査の状況を伝える「現時点の調査では、情報の流出は確認されていません」
起きていないと断定する「情報は流出していません」
こちらは、流出がなかったと確認できた説明になる。
調査の途中なら、調べた範囲と時点に合う言葉を選びます。
反対に、対応を説明する際、確認していない責任や被害の範囲まで断定しないことも必要です。社内で把握している事実、調査中の事項、判断が必要な事項を一覧にし、更新時刻をそろえます。部署ごとの異なる情報が、そのまま別々に公表されないようにします。
例えば情報の流出が疑われる場合、「今のところ流出は確認されていない」と「流出は起きていない」は意味が違います。利用者の判断に影響する差なので、調査の範囲や時点に合った言葉を選びます。個別の事故の公表や連絡義務は、最新の制度と事実に基づいて専門担当者と確認します。
8 会見では、経緯と対応を説明できるようにする
記者会見を開くかは、社会への影響、質問に答える必要性、多くの媒体に同じ情報を伝える必要性などから判断します。会見を開くだけで信頼が回復するわけではありません。経緯、対象者への影響、対応、未確認事項を説明できる資料と、答えられる人が必要です。
取材前には、予想される質問と答えをまとめた「想定問答」を用意します。答えにくい質問も入れて練習します。最初にいつ把握したか、なぜ公表まで時間がかかったか、同じ問題を以前にも認識していたか、経営者は何を判断したか、といった点です。都合の良い質問だけで練習すると、実際の場で説明が途切れます。
会見で話す人が準備するだけでは不十分です。窓口の担当者にも最新の回答を共有し、会見後の利用者の問い合わせに備えます。会見で相談を呼び掛けたのに窓口が応答できなければ、説明と対応が再び食い違います。
窓口には、最新の説明に加え、答えが分からないときの確認先と、責任者へ引き継ぐ基準も伝えます。発表資料に載っていない質問が来ても、担当者が推測で答えずに済むようにします。
9 誤情報を訂正するときは広げ方にも注意する
誤った投稿を見つけても、すべてに公式アカウントで引用返信する方法が最適とは限りません。ほとんど知られていなかった情報を、自社が広く紹介する結果になることがあります。影響、拡散状況、利用者の判断への危険性、直接連絡の可能性を確認します。
訂正する場合は、正しい情報を確認できる場所を用意し、根拠とともに示します。相手を攻撃することに力を使うと、本来の事実説明が伝わりにくくなります。自社に誤りがあった部分と、誤情報の部分が混在する場合は、それぞれを分けて扱います。
10 信頼の回復は発表後も続く
「同じ問題を繰り返さないため、こう変えます」と発表しただけでは、実際に変わったかは伝わりません。これから行う対策と、すでに終えた対策を分けて知らせます。実施状況、確認方法、残る課題を、必要な相手へ継続して知らせます。期限を約束する場合は、社内で実行できる見通しを確認します。
対策が「教育を徹底する」「意識を高める」だけなら、業務上の原因に対応できているかを見直します。確認手順、権限、記録、担当体制などの変更が必要な場合もあります。広報は、まだ実施途中の対策を完了したかのように見せず、どこまで進んだかに合った説明を続けます。
第15章 広報の成果と基本姿勢
第8章では、対象者の選び方、割合、比較条件など、調査の方法を学びました。この章ではその結果を使い、何を成果として報告し、次の仕事をどう変えるかを考えます。
1 発信した量と成果を分ける
記事10本、掲載5件、表示10万回。これらは、何をどれだけ発信し、どれほど表示されたかを示す数字です。相手が正しく理解したか、信頼が変わったかは、別に確かめる必要があります。
図でつかむ「出した」「届いた」「伝わった」を分けて見る自動的に右へ進むわけではありません。それぞれを確かめます。この図は店舗の架空例による教材独自の説明です。
広報の効果測定に取り組む専門団体AMECは、結果を段階ごとに分けて考えます。例えば相談会なら、まず何人が参加し、何を聞いたかを調べます。次に、説明を理解できたか、不安が減ったか、その後の相談に役立ったかを確かめます。こうした違いを表す名前が、下の表の「アウトプット」「アウトテイク」「アウトカム」「インパクト」です。参考資料11
例えば、相談への不安が減ったかを調べることと、その後、困りごとの解決が進んだかを調べることは別です。成果の分類には重なる部分もあります。この表では、相手の理解や気持ちの変化と、会社や関係者に生じた結果を分けています。分類名を覚えるだけでなく、何がどう変わった数字なのかを説明します。
この表はAMECの評価の考え方を参考に、学習用に作った説明です。公式の分類表の転載・全訳ではなく、指標例も店舗の架空企画に合わせています。実際の評価では段階の境界が重なることもあります。分類名を厳密に覚える前に、「何を出したか」と「相手に何が起きたか」を分けることから始めます。
2 数字の見方
リーチは届いた人数やアカウント数、インプレッションは表示された回数を表す指標として使われます。集計方法は媒体によって異なります。表示されても、必ず読まれたとは限りません。
図でつかむ3人に届いて、合計6回表示された例届いた人 3人リーチ
表示された回数 6回インプレッション
簡単な数え方の例です。実際の集計方法は媒体によって異なります。表示されても、読まれたとは限りません。
例えば、同じ3人がそれぞれ2回ずつ投稿を見たとします。人を重複させずに数えると3人、表示の回数を足すと6回です。人数と回数を混同しないようにします。実際の管理画面では、人数ではなくアカウント数を数えるなどの違いもあるため、媒体の説明を確認します。
「いいね」、コメント、共有などの反応を「エンゲージメント」と呼びます。その割合が「エンゲージメント率」です。反応数を何で割るかは、サービスや集計方法によって違います。例えば、反応10件を表示100回で割ると10%ですが、フォロワー200人で割ると5%です。何をもとにした割合か確かめてから比べます。リンクのクリック数も、内容の理解や問い合わせの質を直接示すわけではありません。
割合は「該当する数÷全体の数×100」で求めます。反応10件を表示100回で割るなら、10÷100×100で10%です。比べる資料で分母が違っていないか、計算式まで確認すると間違いを防げます。
クリック率を「クリック数÷表示回数」で計算する場合、表示200回でクリック10回なら、10÷200×100=5%です。名前が同じ指標でも、何を数え、何で割るかを確かめます。
3 数字と内容を一緒に見る
掲載件数が多くても、伝えたかった条件が抜けていれば、誤解が広がることがあります。逆に、対象に合う専門媒体の1件が、必要な相手への説明に役立つ場合もあります。
掲載内容、届いた相手、質問の変化、現場の反応を合わせて確認します。問い合わせが増えた際にも、関心が高まったのか、説明が分かりにくかったのかを区別します。
4 売上などの変化を、広報だけの成果と決め付けない
記事公開後に売上が増えても、値下げ、在庫、季節、広告、営業などが影響している場合があります。「記事だけで売上が増えた」と断定せず、顧客がどのサイトや投稿を見たか、来店のきっかけは何だったかなどを調べます。そのうえで、広報がどのように役立ったかを、確認できた範囲で説明します。
調査では、回答者数、対象者、質問文、実施時期を残します。毎回違う相手に聞いた結果を、同じ人の変化のように扱わないことも大切です。
5 広報担当者が日々の仕事で気を付けること
相手の立場で読む。 自社にとってうれしい出来事でも、相手の利用や仕事にどう関わるかを考えます。社内用語や専門知識を前提にしすぎず、相手が判断するために必要な情報をそろえます。
確認できる事実に基づく。 自分が知っていること、確認できたこと、公表してよいことを区別します。都合のよい情報ほど、根拠と条件を確認します。
説明と行動を合わせる。 対応できないことを約束せず、現場が実行できる内容を伝えます。発信と実態に差があるときは、業務の改善を相談します。
約束と記録を守る。 回答期限、掲載条件、許諾、承認を記録します。担当者の記憶だけに頼らず、誰が見ても確認できるようにします。
反応を受け止める。 意図どおりに伝わらなかったときは、相手の読解力のせいにせず、見出し、根拠、条件、届け方を見直します。理由のある批判は、会社の対応を見直すための情報として受け止めます。
短期と長期の両方を見る。 話題を集めるための表現が、後の問い合わせ、接客、取引、採用にどんな影響を与えるかも考えます。継続できる運営と、関係者からの信頼を意識します。
6 何を測れば企画の改善につながるか
一つの活動について、たくさんの数字を集めるだけでは、うまくいったか判断できません。目標を達成できたか確かめる数字と、途中の様子を知る数字を分けます。こうした確認に使う数値などを「指標」と呼びます。例えば「購入後の相談手順を理解してもらう」が目的なら、窓口を正しく選べるかが中心です。記事の閲覧数やリンクのクリック数は、その前段階を確かめる材料になります。
閲覧は増えたが理解が変わらないなら、内容や読まれ方を確認します。理解した人は多いが窓口を利用できていないなら、受付時間や連絡手段が障害かもしれません。「記事を読む」「内容を理解する」「窓口を利用する」のどこで困っているかを調べると、単に投稿を増やす以外の改善を考えられます。
逆に、目的が問題発生時の注意喚起であれば、広く読まれたことだけで満足せず、影響する対象者に届いたか、必要な行動を取れたかを確認します。通常の宣伝と同じ「いいね」の数で評価すると、必要な案内を誤って低く評価する可能性があります。
7 数字を比べる条件をそろえる
ある月の満足度が80%、翌月が90%だったとしても、対象者や質問が異なれば、同じ条件で改善したとは言いにくくなります。相談会への参加者と一般の顧客、購入直後と半年後では、答える際の経験が違います。
図でつかむどちらも90%。でも、一人の回答が変わると?10人に聞いた場合
10人中9人 90%
賛成が一人減ると 80%
100人に聞いた場合
100人中90人 90%
賛成が一人減ると 89%
黒丸は賛成、白丸はその他。二重丸は、賛成から回答が変わる一人です。全体の人数を変えずに比べています。
割合だけでなく、その計算のもとになった人数も確認します。仕事の場では、割合を出すもとにした人数を「母数」と呼ぶことがあります。統計では別の意味でも使う言葉なので、この教材では「回答者数」や「全体の人数」と具体的に書きます。回答者10人のうち9人と、回答者100人のうち90人は、どちらも90%です。しかし、少人数の結果は一人の回答で大きく動きます。数値を示す際には、回答者数と対象を添えて解釈します。
割合の差を表すときは「ポイント」を使います。相談先を正しく答えた人が60%から75%になったなら、差は15ポイントです。元の60%に対してどれだけ増えたかを計算すると、15÷60×100=25%になります。「15ポイント増」と「25%増」は計算の意味が違うため、報告では混同しないようにします。
良い変化が出なかったときも、すぐ担当者の努力不足と結び付けません。対象に届いていなかったのか、内容が伝わらなかったのか、理解していても、時間や利用条件などの理由で行動できなかったのかを調べます。評価は、成功を証明するためだけでなく、次の判断を改善するために行います。
8 掲載の質を評価する
記事の長さや掲載媒体の知名度に加えて、誰に読まれ、どんな内容になったかを確認します。対象者に必要な条件が含まれているか、会社やサービス名が正しいか、中心となる説明が伝わっているか、問い合わせ先に進めるかなどです。
例えば、地域での相談会なら、全国的な媒体で一言紹介されるより、地域媒体で日時や対象を正確に案内される方が、参加者への説明に役立つ場合があります。有名な媒体であることは価値の一部になっても、それだけで目標の達成にどれほど役立ったかは判断できません。
掲載を広告料金に置き換えた広告換算値は、理解や信頼の変化を示しません。AMECが2025年に発表した「バルセロナ原則4.0」も、広告換算値を使わず、広報が実際にどんな成果や変化に役立ったかを確かめるよう求めています。換算額を売上や利益と同じものとして報告しないことが必要です。AMEC バルセロナ原則4.0
9 数字だけでは見えない関係の変化
記者から分野の背景について相談されるようになった、現場から早い段階で情報が集まるようになった、取引先が問題を小さいうちに知らせてくれるようになった。これらも関係の変化を考える材料です。
ただし、担当者の手応えだけで結論にせず、具体的な出来事や発言を記録します。何が以前と変わり、仕事のどこに役立ったかを説明します。相手とのやり取りを報告に使う際は、秘密情報や個人情報を不必要に共有しないようにします。
広報の価値を一つの数字だけで示そうとすると、測りやすい仕事に活動が偏ることがあります。発信した量と内容、相手の理解や行動の変化、事業への影響を合わせて確かめることで、重要なのに目立たない仕事も振り返れます。
第16章 IR・財務と、会社情報の開示
IRは、株主や投資家に会社の状態や考え方を説明し、対話する仕事です。広報担当者が会計の専門家になる必要はありませんが、数字の意味と情報の扱い方を知らずに発表することはできません。ここからは、相手や分野によって確認する情報がどう変わるかを学びます。この章では、投資家が見る数字と、会社の情報を公表する「開示」の基本を扱います。個別の開示判断や売買の可否は、最新の規則とIR・法務などの専門担当者に確認します。
1 投資家は何を知りたいのか
株式は、会社にお金を出した人が持つ権利を表します。その株式を持つ人や組織が「株主」です。投資家には、すでに株式を持つ人だけでなく、これから投資を考える人もいます。個人のほか、多くの人の年金のお金や、投資のために預かったお金をまとめて管理し、株式などを売買する組織もいます。こうした組織を「機関投資家」と呼びます。IRでは、会社がどんな仕事で売上や利益を得て、今後どう成長し、何が事業の妨げになりそうかを説明します。
商品を買う人が知りたい「使いやすさ」と、投資家が知りたい「今後も利益を得られる仕組み」は重なる部分もあれば違う部分もあります。新商品なら、特徴に加え、事業の中での役割、販売計画の前提、必要な投資なども質問されるでしょう。
企業価値は、その会社が将来どんな価値を生み出せるかという見方と関係します。株式1株の売買価格が「株価」、株価に発行済みの株式数を掛けた金額が「時価総額」です。株式市場での評価を表す数字ですが、宣伝を増やせば必ず上がるものではありません。業績、見通し、リスク、市場環境などが関わります。
IRでは良い情報だけを集めず、課題や不確実な点も説明します。対話で繰り返し聞かれる疑問は経営に戻し、説明が足りないのか、事業の対応が必要なのかを考えます。
2 売上・利益・現金は違う
売上は、商品やサービスを売って得る金額です。売上など、会社の収入に当たるものを「収益」と呼びます。利益は、収益から、それを得るためにかかった費用を引いたものです。例えば売上が1,000万円、売れた商品の仕入れや製造にかかった原価が600万円なら、売上総利益は400万円です。そこから、販売や会社の運営にかかった人件費、広告費などを引くと、本業のもうけを示す「営業利益」になります。
図でつかむ成績、状態、お金の流れを分ける損益計算書1年間などの収入に当たる金額と費用、残った利益。
貸借対照表ある日の財産や借金、差し引きで残る金額。
売上を帳簿に記録しても、代金がまだ入っていない場合があります。
会計上の売上や利益が生じる時期と、現金を受け取る時期は一致しないことがあります。商品を納めて売上として帳簿に記録しても、代金が翌月に入るなら、その間の支払いに使える現金は増えていません。黒字でも資金の支払いに困る場合がある理由の一つです。
「損益計算書」は、例えば1年間にどれだけ収益があり、費用を引いていくら利益が残ったかを見る資料です。「貸借対照表」は、決めた日の時点で、現金や建物などの資産、借入金などの負債、資産から負債を引いた純資産がいくらあるかを示します。「キャッシュ・フロー計算書」は、一定期間にどれだけお金が入り、どれだけ出ていったかを見る資料です。期間の成績、ある日の財産の状態、お金の動きという違いを押さえます。
発表する数字では、売上なのか利益なのか、単位はいくらか、いつからいつまでかを確認します。「過去最高」という場合も、どの指標を、どの期間の記録と比べたのかが必要です。
3 決算の数字を読むときの条件
親会社と子会社などを一つのグループとしてまとめた決算を「連結決算」、一つの会社の決算を「単体決算」と呼びます。グループ全体の売上と親会社だけの売上を並べても、同じ範囲の比較にはなりません。
図でつかむ同じ数字でも、時点と意味が違う将来の目標を、すでに達成したように見せないことが必要です。
前年より売上が増えたとしても、新しく買収した会社の売上が加わった可能性があります。季節によって売上が変わる業種では、直前の月や3か月間だけと比べると判断を誤ることもあります。対象範囲、期間、会計上の変更、一時的な要因を確認します。
「実績」はすでに起きた結果、「予想」は現時点で見込む結果、「目標」は達成したい水準です。来期の売上目標を、すでに達成した実績のように書かないことが必要です。予想には、その前提や変わる可能性も関わります。
財務資料の数字を広報記事へ使う場合は、承認済みの資料から写し、単位と、数字に添えられた条件や注意書きも確かめます。発表前の数字を広報側で勝手に四捨五入するなどして桁を減らしたり、予想の強さを変えたりせず、経理・財務やIR担当と確認します。
4 法定開示、適時開示、自主的な説明
会社情報を外部へ示すことを「開示」と呼びます。金融商品取引法などに基づく法定開示と、証券取引所の規則に基づく適時開示は、根拠となる制度が違います。証券取引所で株式を売買できる上場会社は、投資するかどうかの判断に関わる重要な会社情報を、決められた方法で提供する必要があります。JPXの適時開示制度の説明
図でつかむ会社情報を示す、三つの場面適時開示取引所の規則に基づく開示。
TDnetなどで伝達
制度上の手続きと、分かりやすく説明する活動を区別し、IR・法務と連携します。
法定開示には、会社の事業や経営の数字などをまとめた「有価証券報告書」があります。こうした書類をインターネットで提出したり読んだりできる仕組みが「EDINET」です。適時開示で会社の重要な情報を伝えるときには、「TDnet」という仕組みを使います。これらとは別に、決算説明会、事業紹介、投資家との対話などの自主的なIR活動もあります。
自社サイトやSNSに載せれば、必要な開示手続きがすべて済むとは限りません。新商品、事故、業績の変更などを発表するときは、広報のニュース価値だけで公開時刻を決めず、IR・法務などと情報の公表が必要かどうか、順序、方法を確認します。
上場会社の制度を、すべての未上場企業に同じように当てはめることもできません。株式を証券取引所で売買できない未上場の会社でも、会社法に基づいて決算などを広く知らせる「公告」や、契約で決めた報告が必要な場合があります。会社の形態と情報の内容によって、確認すべき制度が変わります。
5 情報を公平に扱う
上場会社等が未公表の重要情報を特定の取引関係者へ伝えるときには、公平な開示に関するルールが関わります。これを「フェア・ディスクロージャー・ルール」、FDルールと呼びます。対話を一切やめるための制度ではなく、情報の公平性を保つことが目的です。金融庁のガイドライン
例えば、説明会後に一人の投資家から未公表の業績について聞かれた場合、その場で親切に補足したつもりでも問題になり得ます。答えられる公表済みの範囲を確認し、迷ったら持ち帰ってIR担当者に相談します。誤って伝えた可能性があれば、すぐに社内の責任者へ共有します。
インサイダー取引規制では、会社の未公表の重要事実などを知った人による一定の売買が問題になります。社員本人だけでなく、情報を受け取った人なども関係する場合があります。「少額だから」「損をしたから」という理由だけで問題がなくなるわけではありません。JPXのインサイダー取引規制の説明
FDルールの「重要情報」と、インサイダー取引規制の「重要事実」は、同じ言葉として扱えません。また、うわさや報道が出たことと、規制上必要な公表がされたことも同じとは限りません。判断を自己流で簡単にせず、担当者へ確認することが基礎です。
6 広報とIRが連携する流れ
発表を準備するときは、何が決まったか、数字は確認済みか、契約相手との公表条件はあるか、投資判断に関わるかを整理します。誰が資料を確認し、誰が公開を判断し、どの媒体にいつ出すかを、関係部署とそろえます。
例えば新工場の発表なら、広報は地域や報道機関向けの説明、IRは投資額や事業計画との関係、現場は工場を動かし始める予定や安全対策を確認します。資料ごとに対象は違っても、所在地、金額、開始時期などの事実は一致している必要があります。
公開前の資料は、必要な人に限って共有します。下書きの公開設定、予約投稿、メールの宛先、共同発表先の公開時刻も確認します。説明会で使う想定問答にも、公表済みの内容と未公表の内容が混ざっていないかを点検します。
公開後は、質問への回答や訂正を関係部署で共有します。一度出した資料の誤りに気付いた場合、記事だけを黙って書き換えず、必要な訂正方法と連絡先を相談します。投資家、顧客、従業員に説明の食い違いを残さないためです。
第17章 社会・環境への責任を伝える
会社の活動は、顧客だけでなく、働く人、取引先、地域や環境にも影響します。良い活動を紹介する前に、事業がどんな影響を与えているかを理解する必要があります。この章では、CSRやESGという言葉を、会社の具体的な行動から学びます。
1 CSRは寄付やボランティアだけではない
CSRは、企業の社会的責任を表す言葉です。寄付や地域清掃も関わりますが、商品の安全、働く人の扱い、相手をだましたり、不当に不利な条件を押し付けたりしない取引、環境への影響など、日々の事業そのものにも責任があります。寄付をしているから、危険な働かせ方や不適切な取引を埋め合わせられるという考え方ではありません。
図でつかむCSRは、事業の日常にも関わる↓
寄付や協賛だけで、ほかの責任を果たしたことにはなりません。
例えば食品会社なら、地域のイベントへの協賛に加え、食品の安全、仕入れ先の労働条件、包装ごみなどを考えます。広報担当者は、見栄えの良い活動写真だけで会社全体を紹介せず、本業で何を確認し、どんな課題が残っているかを聞きます。
社会的責任の国際的な手引きであるISO 26000も、組織の意思決定や活動に社会的責任を組み込む考え方を示しています。ISO 26000は、外部の機関から「基準を満たした」と認めてもらうための規格ではありません。「ISO 26000の認証を取れば社会的責任を果たせる」と説明しないようにします。ISOの規格説明
寄付や困っている人を助ける活動だけでなく事業の影響を問う動きの中で、企業には取り組みの根拠や継続性も求められてきました。広報は担当部署と事実を整理し、実際に行っていることを、その範囲に合う言葉で伝えます。
2 サステナビリティ、ESG、SDGsの違い
サステナビリティは、社会や環境も含めて、将来にわたり成り立つ状態を考える言葉です。会社では、資源や人材を使い続けられるか、事業が社会へ負担を与えていないかなどを考えます。環境問題だけに限る言葉ではありません。
ESGは、環境を表すEnvironment、社会を表すSocial、会社の経営を確認する仕組みである企業統治を表すGovernanceの頭文字です。環境なら温室効果ガスを出す量や資源の使い方、社会なら人が大切に扱われているか、働き方や安全はどうかを見ます。企業統治では、経営者の判断を確認する仕組みや、不正を防ぐ取り組みなどを見ます。投資家が会社の持続的な成長やリスクを考える際にも使われます。
SDGsは、貧困や不平等、環境問題などを改善し、将来も暮らせる社会を目指して国連で決めた17の目標です。会社だけの認証制度ではありません。関連する目標のマークを載せたことだけで、会社の取り組みが十分だと認められたり、環境性能が証明されたりするものではありません。国連のSDGsの説明
例えば男女が働き続けやすい会社を目指すなら、目標の紹介に加え、制度の利用状況、相談への対応、昇進や賃金に関する課題などを確認します。言葉やマークから始めるより、誰にどんな影響があるかを調べる方が、説明する内容を具体的にできます。
3 優先して取り組む課題を決める
会社が関わる課題は多く、すべてを同じ深さで扱うことは難しいものです。重要な課題を整理する際に使われる言葉が「マテリアリティ」です。重要性を判断する際は、何にとって重要かを明確にします。
図でつかむ水利用を、二つの向きから見る会社が社会に与える影響と、会社のお金や経営への影響を分けて考えます。基準によって重要性の見方が異なります。
会社の社会・環境への影響を報告するための国際的な基準に「GRI」があります。この基準では、会社が経済、環境、人々に与える重大な影響を見ます。一方、「IFRS」のサステナビリティ開示基準では、環境や社会の問題が会社の将来の売上や費用、資金集めなどにどう影響するかを考えます。会社にとっての困りごとだけでなく、成長につながる機会も含め、投資家などの判断に役立つ情報を示します。会社が社会に与える影響と、社会や環境の変化が会社のお金や経営に与える影響を分けて理解します。GRIの説明・IFRSの説明
例えば工場の水利用なら、会社が水不足で生産できなくなる問題と、地域の人が必要な水を使えなくなる問題の両方を考えます。すぐに売上へ影響しない問題でも、人への被害が重大なら軽く扱えません。従業員、住民、取引先などから状況を聞きます。
担当部署と、影響の大きさ、起きる可能性、現在の対応、測定方法を整理します。どの基準を使うかや、どの情報を公表する決まりが自社に当てはまるかは、会社の状況によって違います。広報が読みやすさだけで対象を削ったり、独自の評価へ置き換えたりしないようにします。
4 排出量は範囲と単位をそろえて説明する
地球を暖める働きを持つ二酸化炭素などの気体を「温室効果ガス」と呼びます。会社の活動で出る量を数えるときは、どこで出たかを分けます。自社の工場で燃料を燃やすなど、自社から直接出る分が「Scope 1」です。買った電気や熱を使うために、発電所などの他社で出た分が「Scope 2」です。原材料の製造、輸送、販売した製品の使用など、これ以外の自社の事業に関わる分が「Scope 3」です。環境省の説明
図でつかむ排出量は、どの範囲を数えたかを示すScope 1自社の工場で燃料を燃やすなどして出る分。
Scope 2買った電気や熱を使うために、発電所などで出る分。
Scope 3原材料の製造、輸送、製品の使用などで出る、ほかの分。
取引先全体の排出を、そのまま自社分へ足す意味ではありません。計算する範囲と方法を確認します。
Scope 3は「取引先の排出すべて」という意味ではありません。自社の活動との関係や、計算に含める対象を確認します。数字を公表するときは、期間、対象の会社や拠点、計算方法、直接測らず、データから予想して計算した部分も分かるようにします。
総排出量が100トンから90トンへ減っても、生産量が半分になったなら、同じ製品と計算方法で比べた一製品当たりの排出量は増えます。例えば生産量が100個から50個へ減ったなら、1個当たりは1トンから1.8トンになります。全体の量と、製品1個や売上の一定額に当たる量は、別の数値です。どちらを減らした数字なのかを明記します。
自社の活動から出る排出を減らすことと、他の場所でガスを減らした量や吸収した量を認めた証書である「クレジット」を使って埋め合わせることも区別します。埋め合わせをした量を、そのまま工場の排出削減量として説明しないことが必要です。
5 人権や労働の問題も事業と結び付いている
会社の責任を考えるときは、自社の従業員だけでなく、仕入れや委託などの取引を通じて人に与える影響にも目を向けます。無理な納期や安さの要求が、働く人への負担につながっていないかを考えることも含まれます。
人権への悪影響を調べ、防止・軽減し、対応を確かめて説明する継続的な取り組みを「人権デュー・ディリジェンス」と呼びます。契約書に一文を入れたら終わるものではありません。問題が起きた場合に被害を受けた人を助けることや、相談できる仕組みも関わります。経済産業省のビジネスと人権の資料
広報で従業員や支援を受けた人を紹介する場合は、本人が断れるか、顔や名前を出す必要があるかを確かめます。会社の良さを伝えるためでも、弱い立場にある人へ出演を強いたり、困った経験だけを強調したりしない配慮が必要です。
外部から指摘が届いたら、広報だけで反論を作らず、社員の働き方、仕入れ、法律などを担当する部署に、事実の確認を頼みます。「方針を公表している」ことと「現場で守られている」ことを分けて確かめます。
6 誤解を招く環境表現を避ける
実態以上に環境に良いと見せることは「グリーンウォッシュ」と呼ばれます。「地球にやさしい」のような広い表現は、何をどの範囲で改善したかが分かりません。対象と比較条件、根拠を具体的に示す必要があります。
例えば「容器のプラスチックを削減」と書くなら、どの容器か、以前と同じ容量で比べたか、重量を何%減らしたかを確認します。容器の一部を変えた成果を、商品の製造から廃棄までの環境への負担全体が減った証拠として使うことはできません。
目標と実績も分けます。「2030年までに減らす計画」と「今年すでに減らした量」は別です。達成できていない項目や計算に含める範囲の変更があれば、その理由や影響も説明します。第三者の評価や認証がある場合は、対象、期間、何を評価したものかを確かめます。
公開前には、担当部署の元データ、対象範囲、比較条件、表現、確認者を記録します。誤りが分かった場合は、根拠と表現を見直し、必要な訂正を行います。環境表示の考え方は、環境省の環境ラベル等の情報で確認できます。
第18章 海外と、多様な相手に伝える
海外へ発信することは、日本語を英語に置き換えるだけではありません。相手が使う言語、知っている制度、生活の状況、情報を得る方法まで考えます。この考え方は、日本に住む外国人や、情報を利用しにくい人への案内にも役立ちます。
1 国名だけで相手を決め付けない
同じ国に住んでいても、使う言語、宗教、年齢、仕事、学歴、障害の有無、生活経験は違います。「外国人は直接的な説明を好む」のように一括りにすると、本当に必要な情報を見落とします。誰が、何を判断するために読むのかから考えます。
例えば、日本で初めて病院を利用する人には、診療内容だけでなく、予約が必要かどうか、持ち物、費用の払い方、緊急時の連絡先が必要かもしれません。同じ言語を読めても、日本の仕組みに詳しい人と初めて使う人では必要な説明が違います。
相手を知るには、現地の担当者や支援団体、実際の利用者に聞きます。国別の知識は調査の手掛かりですが、目の前の人の考えを断定する答えにはできません。写真や色、身ぶり、冗談も、地域や状況によって受け止め方が変わるため確認します。
一つの説明を作る前に、「誰の経験を前提に書いているか」「説明していない制度は何か」を見直すと、翻訳だけでは解決できない問題に気付きやすくなります。
2 共通の事実と、地域ごとに変える説明
世界で共通して伝える会社の方針や事実と、地域に合わせる内容を分けます。製品の安全性など、同じ対象についての重要な事実を国ごとに都合よく変えることはできません。一方、価格、保証、発売日、問い合わせ先などは地域によって違う場合があります。
図でつかむ共通にする事実と、現地で確認する条件本社と現地の両方で確認し、修正した内容を共有します。
言葉や例、単位、利用手順などを地域に合う形に整えることを「ローカライズ」と呼びます。円を別の通貨に置き換えるだけでなく、税込みか、配送できる地域はどこか、現地で修理を受けられるかまで確認します。
「10月18日午前10時」という発表時刻には、必要に応じてどの地域の時計を基準にした時刻かを示します。この地域ごとの時刻の区分を「タイムゾーン」と呼びます。日本の午前10時と相手の国の午前10時は同じ時刻とは限りません。日付の数字の並べ方も国によって違うため、月名を書くなど誤解しにくい表記を選びます。
本社だけで文章を承認しても、現地の制度や利用条件を確認できるとは限りません。本社は共通方針や事実、現地は制度・言葉・利用条件などを確認し、どちらかが直したらもう一方にも共有します。
3 翻訳と通訳の確認手順
翻訳を頼む前に、元の日本語を整理します。主語が省かれ、対象や条件があいまいな文は、翻訳者にも判断できません。「場合により対応します」なら、誰が、どんな条件で、何をするかを明確にします。
商品名、役職、専門用語、使ってはいけない表現を一覧にしたものを「用語集」として共有すると、資料ごとの表記の違いを減らせます。いつの原文を使い、どの翻訳が最新か、誰が確認したか、いつ更新したかも残し、古い言語版だけが公開され続けないようにします。
機械翻訳は下書きの助けになりますが、保証、安全、契約に関わる文章は、意味と条件を理解する担当者の確認が必要です。「対象外」が「対象」に変わるような誤りは、文章が自然でも重大です。数字、否定、条件、固有名詞を特に確認します。
通訳を介した取材では、短いまとまりで話し、通訳する時間を取ります。質問の意味があいまいなら確認し、答えていない部分を通訳者が推測で補わないよう事前に役割をそろえます。取材後の追加回答や訂正も、元の言語と翻訳の両方に反映します。
4 海外メディアへの情報提供
記者が活動する国や地域によって、媒体の読者、取材の進め方の習慣、締め切り、扱うテーマは違います。日本で大きなニュースでも、その読者にどう関係するかが分からなければ、取材の判断材料になりません。現地への影響や、比較できる背景を補います。
例えば日本企業の新拠点なら、会社の歴史だけでなく、現地でどんな人を何人雇うか、提供するサービス、地域との関係、責任者の説明が必要でしょう。誰が取材に答えられ、どの言語で対応できるか、時差を踏まえた連絡方法も示します。
情報を公表してよい日時や、取材の条件は、相手の同意を確認します。資料の上に時刻を書いただけで、すべての媒体が掲載を待つと考えないようにします。オフレコの認識にも違いがあり得るため、何を公開してよいかを事前に明確にします。
発表内容が複数の国の法令や上場規則に関わる場合は、広報だけで順序を決められません。現地の専門担当者とも確認し、一方の国で先に出した情報が、別の国の情報管理上の問題にならないようにします。
5 やさしい日本語と、情報へのアクセス
「やさしい日本語」は、日本語に不慣れな人にも伝わるよう、言葉や文を分かりやすくする方法です。「土足厳禁」なら「ここで靴を脱いでください」のように、してほしい行動を具体的に示します。相手を子ども扱いする言い方に変えることではありません。出入国在留管理庁のガイドライン
図でつかむ必要な情報を使える形にする↓
翻訳、やさしい日本語、アクセシビリティは、相手の必要に合わせて組み合わせます。
翻訳、通訳、やさしい日本語は、相手と内容によって使い分けます。詳しい医療や契約の説明などでは、やさしい日本語だけで十分とは限りません。意味が分かったかを確かめ、必要な支援へつなぎます。
情報や機能を利用しやすくすることを「アクセシビリティ」といいます。画像の中だけに日時を書くと、音声で画面を読む人は確認できない場合があります。文字としての案内、画像の内容を伝える代替テキスト、動画の字幕、意味の分かる見出しやリンク名などを用意します。デジタル庁の導入ガイドブック
インターネットを使わない人や、通信が途切れた人もいます。必要に応じて電話、紙、窓口、地域の団体などを組み合わせます。利用者が必要な手続きを終えられるかまで確かめると、掲載しただけでは見えない課題が分かります。
6 緊急時は、言語が違っても重要な事実をそろえる
事故や不具合の案内では、対象、取ってほしい行動、代わりの手段、問い合わせ先、更新時刻を優先します。長い事情説明の翻訳を待つ間に、必要な安全情報まで遅らせないよう、確認済みの短い案内から出す体制を準備します。
図でつかむ一つの更新を、各言語へ反映する同時公開だけでなく、更新後も内容が一致していることを確認します。
日本語版では「使用を中止」と更新したのに、英語版が「注意して使用」のままなら、案内が食い違います。各言語版を管理する人と、更新を確認する手順を決めます。単に同時刻に公開したことより、同じ対象について矛盾した行動を案内していないことが重要です。
海外拠点では、本社の夜間にも対応が必要になる場合があります。現地で判断できる範囲、責任者への連絡方法、担当者がいないときに代わる人を決めます。発表を待つ間に、利用者からの連絡を誰が受けるかも確認します。
落ち着いた後は、各言語で何が伝わらなかったかを振り返ります。誤訳だけでなく、連絡先が現地から使えたか、必要な人が案内を見つけられたか、質問を返せたかまで見直します。
第19章 行政・地域・非営利団体と広報
広報は、会社の商品を知らせる場面だけで使うものではありません。地域の人と話し合って、お互いに受け入れられる方針を探すこと、行政サービスの案内、非営利団体の活動にも関わります。ここでは、売上や知名度だけでは成果を判断できない広報を学びます。
1 行政広報では、必要な人が制度を使えることを考える
行政の広報では、住民が制度や決定の内容を理解し、必要なサービスを受けられることが大切です。関心の高い人だけが分かればよいとは限りません。制度を知らない人、読むことが難しい人、インターネットを使わない人にも届け方を考えます。
例えば子育て支援の案内なら、制度名だけでなく、対象者、受けられる支援、申請期限、必要な物、相談先を示します。「詳しくは窓口へ」だけでは、仕事や移動の事情で行けない人が困るかもしれません。よくある質問と、別の相談方法も用意します。
閲覧数が増えたことと、支援が必要な人が利用できたことは違います。必要な人に案内が届いたか、申請で迷わなかったか、必要な支援を受けられたかを確認します。利用しなかった理由には、知らなかった以外に、条件が合わない、手続きが難しいといった事情もあります。
公的な制度の説明では、事実や利用条件と、政策への評価・意見を区別します。政策に賛成してもらう発信と、住民がサービスを使うための案内を混ぜすぎないことが、情報への信頼につながります。
2 広聴と、意見を受けた後の説明
「広聴」は、相手の意見や要望を広く聞き、組織の判断に生かす活動です。アンケート、相談窓口、説明会、聞き取りなどの方法があります。意見を集める箱を置くだけでなく、誰が読み、どう検討するかを決めます。
図でつかむ意見を聞いた後にも、説明がある↶ 分かったことを、次の取り組みに戻す
受付件数だけでは、意見が判断に使われたかは分かりません。
説明会へ来られる人だけに聞くと、勤務時間や育児などの事情で来られない人の声が抜けます。オンライン、紙、個別の聞き取りなどを組み合わせ、影響を受けるのに発言しにくい人がいないかを確認します。参加人数が多くても、その意見が地域の人全体を表しているとは限りません。
意見を受けた後には、採用した点、採用できなかった点、その理由を説明します。「検討します」で終わらず、誰が、いつまでに、何を検討するかを伝えると、その後の経過を確かめられます。結論が出ていない場合も、現在の段階を知らせます。
個人の相談には秘密や私生活の情報が含まれることがあります。内部で検討するための共有と、意見の内容を公表することは分け、個人を特定できる情報の扱いを確認します。
3 パブリックアフェアーズと政策への関わり
パブリックアフェアーズは、政策や制度、社会課題に関わる人たちと情報や意見を交わし、関係を築く活動です。企業が新しい制度への意見を出したり、業界団体、住民団体、行政などと課題を話し合ったりする場面があります。
自社の要望を説明する場合は、誰の立場で、どんな根拠に基づき意見を述べるかを明確にします。例えば配送の制度について提案するなら、自社の費用だけでなく、働く人の安全、利用者の利便、地域への影響も考えます。会社の意見を一般市民全体の意見として見せないことが必要です。
政策に働きかける活動を「ロビー活動」と呼ぶこともあります。誰がどんな立場で働きかけているかを明らかにし、関係する法律やルールを守る必要があります。また、個人や特定の会社の利益を優先して、公正な判断ができなくなる「利益相反」にも注意します。相手との関係が深いことを、公正な手続きを省ける理由にしないようにします。
広報担当者は、事業に関係する制度変更を早めに知り、経営や現場に説明します。制定済みの制度、検討中の案、自社の希望を区別し、まだ決まっていないことを決定事項として発信しないことが基本です。
4 パブリックコメントは多数決ではない
国のパブリックコメント制度では、省令など、行政が定めるルールの案と関連資料を公表し、広く意見や情報を求めます。提出された意見を考慮したうえで、結果や考え方を示す仕組みです。同じ意見を大量に送っても、その数だけで取り入れるかどうかは決まりません。賛成や反対の多さを競う投票とは違います。e-Govの制度説明
図でつかむパブリックコメントで伝える内容同じ意見の数で取り入れるかを決める投票ではありません。制度ごとの提出方法を確認します。
意見を出すときは、対象となる案のどの部分に、どんな問題があり、何を変えてほしいかを具体的にします。実際の影響や根拠、代わりの案を添えると、検討の材料になります。「困る」「賛成」だけでは、何をどう判断してほしいかが伝わりにくくなります。
募集期間、提出方法、公表される情報の範囲も確認します。会社として出す意見なら、関係部署で内容と提出者を確認します。個人情報や取引先の秘密を、説明の材料として不用意に送らないようにします。
自治体などにも意見募集の仕組みがありますが、対象や手続きは制度ごとに確認します。意見の提出が終わった後も、結果と決まった制度を読み、実際の業務や案内に何を反映するかを考えます。
5 地域との合意形成とイシュー管理
工場や店舗の計画では、雇用が増える利点と、交通や騒音への不安が同時に生じることがあります。関係者が違えば、受ける利益や負担も違います。反対する人を説明不足の人と決め付けず、何に影響を受けるかを調べます。
図でつかむ不安の説明と、計画の見直しをつなぐ説明会を開いたことだけで、地域の承認を得たとは言えません。
問題として表面化する前から、事業に影響する社会的な課題を見つけ、対応を考えることを「イシュー管理」と呼びます。制度変更、地域の不安、労働や安全の問題などが対象です。起きた事故への緊急対応である危機管理と、つながりながらも時間の取り方が違います。
新店舗の搬入車が通学路を通る計画なら、説明会の資料を作る前に、時間帯、台数、通学の状況、代わりの経路を調べます。案内を分かりやすくしても危険自体はなくならないため、計画を変更できる担当者と検討します。
関係者が受け入れられる方針を探す「合意形成」では、変更できる条件と、法令や設備などで変更できない条件を明らかにします。全員の賛成が得られなくても、検討の経緯と理由を説明し、事業開始後の相談窓口や確認方法を残します。意見を聞いた事実だけを、地域の承認を得た証拠にしないようにします。
6 非営利団体の説明責任
非営利とは、活動でお金を得てはいけないという意味ではありません。活動で得た利益を団体のメンバーで分けることを目的とせず、団体の目的のために使うという考え方です。非営利団体にも、NPO法人、公益法人、任意団体など違う形があり、従うべき制度は同じではありません。
支援団体の広報では、寄付する人、支援を受ける人、職員、ボランティア、行政などが関係します。寄付者へ成果を伝える必要があっても、支援を受ける人の顔や苦しい経験を、本人の意思を無視して公表してよいことにはなりません。
活動報告では、何を目指し、資金をどう使い、誰に何が届き、どんな課題が残ったかを説明します。募金額やイベントの参加人数だけでなく、活動目的に関わる変化を確かめます。運営に必要な費用もあるため、事務費が少ないことだけを良い団体の証拠にしないようにします。
NPO法人には、活動や会計の報告書などを事務所に置いて、決められた条件で読めるようにする制度があります。また、ある時点の財産や借金などを示す貸借対照表を、広く知らせる決まりもあります。団体の説明責任を支える具体的な仕組みの一つです。制度上必要な書類を出すことに加え、一般の読者にも理解できる説明が役立ちます。内閣府NPOホームページ
7 基礎を身につけたか、自分の言葉で確かめる
ここまでで、広報の基本と分野ごとの注意点を学びました。次の二章では、それらを組み合わせて、具体的な場面を考えます。
基礎を学び終えたかは、章を開いた回数や、選択肢を覚えた数だけでは判断できません。初めて見る場面で、誰に影響があるか、何が確認済みか、何を伝え、何を聞き、誰と判断するかを説明できるかで確かめます。
例えば、会社が地域の公共施設で相談会を開く場合を考えてください。顧客向けの案内、行政との役割分担、個人情報の扱い、会場へ来にくい人への対応、成果の確かめ方が必要です。ここまでの仕事の流れと分野別の知識を組み合わせて考えられます。続く第20〜21章のケースでも、確認する相手と判断の理由を考えてみてください。
法律、会計、医療、技術などの専門判断を、広報が一人で行う必要はありません。問題になりそうな点に気付き、確認する相手と資料を示せることも基礎の一部です。知っている用語を並べるより、「この条件が未確認なので、公開前にこの担当者へ聞く」と説明できることが役立ちます。
教材を読み終えた後も、制度や媒体の変更は公式情報で確かめます。この教科書で学ぶのは、企業広報の共通する基礎と、専門分野へ進むための入口です。すべての業種の実務や資格試験への適合を保証するものではありません。分からない点を具体的な問いにして調べられれば、学んだ知識を次の学習に使えます。
第20章 発表や事業の変化を考えるケース
ここからは、これまで学んだ知識を組み合わせる練習です。各ケースの説明を読む前に、自分なら誰に何を確かめるか考えてみてください。新しい用語を増やすより、判断の理由を言葉にすることを目指します。
ここからのケースは、判断を練習するための架空の状況です。特定の企業の実話や、実証された成功事例ではありません。先に「自分なら何を確認するか」を考えてから、解説を読んでください。「誰が困るか」「何が分かっているか」「誰に確かめるか」を順に考えます。答えを丸ごと覚えるためではなく、似た場面で自分でも考えられるようにするための練習です。
ケース1 値上げを伝える
地域のカフェが、よく売れているメニューを来月から値上げすることになりました。経営者は「材料費が上がったと書けばよい」と考えています。担当者は、常連客からの反発を心配し、できれば小さく告知したいと思っています。
図でつかむ値上げのお知らせは、理由と利用条件を一緒に来店前に、利用するかどうかを判断できる情報をそろえます。
最初に確認するのは、どの商品が、いつから、いくらに変わるかです。セット商品、回数券、予約済みの注文、持ち帰りにも新しい価格が当てはまるか調べます。店頭、メニュー、予約ページ、SNSの説明が違うと、会計の場で利用者が困ります。発信の前に、決まった条件を、現場のスタッフも正しく案内できるようにする必要があります。
理由を説明する際には、自社で確認できた事実をもとにします。材料や運営費の変化を挙げるなら、どの費用が関わるかを確認します。取引先との契約上、細かい金額を公表できないこともあります。その場合でも、説明可能な範囲と、今後提供する内容を整理できます。実際には変えていない品質向上を、値上げの理由として追加しません。
告知を見た利用者が、利用を減らす判断をすることもあります。それをすべて説明の失敗と考える必要はありません。価格変更は実際の負担を伴うためです。変更を隠して来店させるのではなく、利用者が事前に条件を知り、利用するかどうかを選べるようにします。質問が多い条件を確認し、必要な説明を追加します。
告知の時期と、誰に知らせるかは、商品や契約によって変わります。来店時に一度ずつ購入する商品と、継続契約や事前予約では、必要な連絡の範囲が変わります。利用規約や契約、変更の影響を確認して、個別連絡も含めた方法を決めます。
ケース2 新商品が予定日に間に合わない
メーカーが発売日を公表した後、製造の遅れで予定日に商品を届けられないことが分かりました。営業は予約キャンセルを避けたいと考え、「もう少し待てば間に合うかもしれない」と告知の延期を求めています。
図でつかむ延期が決まったことと、次の日程は別に伝える今、案内できること予約の相談先と、次に知らせる予定。
新しい日程が未定でも、分かっている遅れや対応を隠さず説明します。
広報は、確定している遅れ、影響する商品、出荷の見通し、予約者への対応を製造と営業に確認します。「遅れるかどうか」と「新しい日程が決まったか」は別の問題です。新日程が未定でも、予定どおりに提供できないことが確認されているなら、その情報が利用者に必要になる場合があります。
説明では、分かっている影響と、まだ決まっていない予定を分けます。「近日中」「まもなく」のような表現を繰り返すと、利用者は自分の予定を立てられません。次にいつ案内するか、予約の変更やキャンセルをどう相談できるかを示します。営業や契約担当に条件を確認し、同じ内容で案内します。
遅延を取引先だけの責任として公表することにも注意が必要です。原因の説明が正確か、公表できる内容か、顧客への対応責任はどこにあるかを確認します。背景の複雑さをすべて説明しなくても、利用者に必要な事実と対応は整理できます。
発表後は、公式情報だけを更新して終わらず、販売店、予約者、広告、配信済みの案内も確認します。古い発売日が目立つ場所に残れば、新しい誤解が生まれるためです。
ケース3 社長が交代する
長く地域で営業してきた会社で、創業者から次の世代へ社長が交代します。新社長は新しい取り組みを強く打ち出したい一方、既存の顧客には担当やサービスが変わるのではないかという不安があります。
会社側は、経歴や将来の抱負を中心に発表しがちです。しかし、顧客が最初に知りたいのは、現在の契約、予約、保証、相談先がどうなるかかもしれません。従業員には、判断の体制や方針、仕事への影響が重要です。相手ごとに必要な説明を分けます。
新社長の考え方を伝える際は、これからも大切にする考え方と、改善したい課題を具体的に説明します。前の経営を否定する語り方は、長く働いてきた社員や顧客の経験を軽く扱うことがあります。過去の積み重ねをどう受け継ぎ、何を見直すかを、会社で実際に行っていることに合わせて説明します。
経営者の交代は、人物の紹介だけでなく、会社の説明を見直す機会になります。本人がいなければ答えられない情報、古い会社概要、曖昧な窓口などを整理できます。ただし、交代直後から多数の新企画を約束すると、現場の体制が追い付かない可能性があります。現場で実行できる準備が整っているかを確かめて、公表する内容を決めます。
社長が「始めたい」と話した段階と、会社として提供を決めた段階も分けます。本人の希望を、そのまま顧客への約束にはしません。準備が進んでいるか、担当者や開始時期が決まっているかを確かめて、希望、検討中の計画、決定事項を区別します。
ケース4 法人向け企業に派手なニュースがない
小さな部品メーカーが「新商品もないし、広報の材料がない」と悩んでいます。一般向けSNSでは反応が少なく、担当者は仕事の意味を感じられなくなっています。
まず、誰に何を理解してもらう必要があるかを確認します。新規の取引先を探す課題なら、部品を買い付ける人や設計する人が、どんな条件で依頼できるかを判断する情報が必要です。一般消費者向けの話題づくりが、最優先とは限りません。
現場では、少ない数の注文にも対応する工夫、検査工程、納期調整、設備の使い分けなどが行われているかもしれません。社外にとって意味のある工程を取材し、公開できる範囲で説明します。顧客との秘密保持や技術上の制約があるため、すべての実例を公開できるとは限りません。
その場合、顧客名や機密の数値を出さず、課題の種類、判断の考え方、相談できる条件を説明する方法を検討します。技術記事、展示会の説明資料、採用向けの仕事紹介など、同じ材料を異なる相手に合わせて編集できます。
広報の成果も、一般向けの反応数だけでは測りません。例えば、新しく取引したい会社から相談が来たかを確認します。展示会では、依頼できる条件が伝わったかを聞きます。採用が目的なら、応募を考えている人が仕事内容を理解できたかを確かめます。何を改善したかったのかに合わせて、成果を調べます。
ケース5 閉店を知らせる
地域の店が、半年後に営業を終えると決まりました。経営者は感謝の気持ちを中心に文章を出したいと考えています。一方、継続利用している顧客には、未使用の券、修理中の商品、預けた品物、今後の相談先などの問題があります。
図でつかむ閉店の発表後も、利用者の手続きは続く感謝の言葉に加え、利用者が手続きを終えられる案内が必要です。
閉店のお知らせでは、感謝だけでなく、相手が必要な手続きをできる情報を整理します。最終営業日、受付終了日、引き取り方法、契約やサービスへの対応、閉店後の連絡先などです。実際の契約や適用される制度を社内の担当者に確認し、対応条件を決めます。
従業員や取引先には、それぞれの事情に応じた説明が必要です。公表によって初めて重大な変更を知る人が出ないよう、必要な連絡の順序と情報管理を考えます。利用者に店の歴史や感謝を伝えるだけでは、従業員の今後の仕事や取引先の負担などの問題は解決しません。
発表後は、よくある質問と対応状況を更新します。最終日が近づくほど問い合わせが集中するなら、窓口や案内を増やす必要があるかもしれません。閉店後も読まれる情報には、どこへ連絡できるかを残します。発表を出した日ではなく、相手の手続きが完了するまでを考えるケースです。
ケース6 小さな環境活動をどう伝えるか
会社が商品を包む材料の一部を変え、使う量を減らしました。担当者は「地球にやさしい企業」という大きなメッセージを打ち出したいと考えています。しかし、会社全体で環境にどれだけ影響を与えているかは調べていません。
発表できるのは、実際に確認した変更とその範囲です。どの包装材を、どの期間と比べて、どの条件で減らしたのかを整理します。包装材を減らす一方で破損や返品が増えた場合は、活動全体としての影響も検討する必要があります。
「一部の包装を変更した」という事実から、「すべての商品が環境に良い」とは言えません。達成したこと、今後調べること、残る課題を分けて伝えます。大きく見せるための言葉を探すより、どこまで進んだかを具体的に示す方法を考えます。
現場に質問してみると、使った包装材の量を記録していないことが分かるかもしれません。そのときは「来月から使用量を残しませんか」と相談できます。発表文を書くための確認が、仕事の改善にもつながる例です。
総使用量と、一商品当たりの量も別です。例えば包装材が100kgから80kgになれば、総量は20kg減っています。ただし、出荷した商品数が分からなければ、一商品当たりで減ったかは計算できません。比べる際は、商品数や対象商品の条件も記録します。
第21章 問題や対立が起きたときのケース
前の章では、予定している発表や事業の変化を考えました。この章では、急な問題や意見の対立があるときに、確認と説明の順序をどう決めるかを練習します。
この章も架空の状況を使います。危機の種類や被害、契約、制度によって実際の対応は変わります。ここでは、どの情報と判断が必要かを学びます。
ケース1 顧客の投稿が急に拡散した
飲食店で「注文と違う料理を出され、店員の説明も不親切だった」という投稿が広がりました。店側には違う認識がありますが、記録を十分に確認できていません。経営者は、すぐ投稿者を否定する文章を出したいと考えています。
図でつかむ言い分が違うときは、確かめる材料を集める↓
記憶が違うだけで、どちらかがうそをついたと決め付けません。確認できたことと、食い違いを分けます。
最初に当日の記録を調べ、関係者に話を聞きます。注文内容、出した料理、店員の説明について、どの点で言い分が違うかを整理します。投稿者の体験と店員の認識が異なる場合、どちらかが意図的にうそをついていると決め付けないようにします。記憶、聞き違い、記録の不足など、確認すべき点があります。
公開の返信は、個人の注文や会話をすべて開示する場ではありません。状況を確認していること、相談できる窓口、確認後の対応を、説明可能な範囲で伝えます。すでに確認できた自社の不適切な対応があるなら、その点は認め、まだ確認できていない食い違いとは分けて説明します。
一方、深刻な虚偽や脅迫、個人への攻撃などがある場合は、運用担当者が一人で反論を繰り返さず、責任者や必要な専門家と対応を検討します。批判を受け止めることと、従業員への危害や不当な要求を放置することは同じではありません。
公開後も、現場への問い合わせや従業員の負担を確認します。反論文の反応だけでなく、苦情が生まれた業務に改善点がないかを見ることが必要です。
ケース2 社員の私的な投稿が会社への批判につながった
社員が私用アカウントで利用者を軽視するような投稿をし、プロフィールから勤務先が知られました。会社に「この発言を認めているのか」という問い合わせが来ています。
まず、本人の投稿か、改変やなりすましがないか、業務や顧客情報が関係するかを確認します。会社の公式発言ではないことだけを示して終わると、実際の接客や組織の姿勢に関する疑問が残る場合があります。何について会社が説明する責任を持つかを整理します。
ただし、批判を収めようとして、本人の住所などの個人情報や、会社が本人にどんな処分をするかを、必要以上に公表するのも適切ではありません。人事や法務などと連携し、事実、対応、公開範囲を決めます。広報担当者が、事実確認より先に処分を約束しないようにします。
問題が起きていないときには、私的な利用であっても、秘密情報、顧客、同僚の権利を守る必要があることを具体例で共有します。単に「炎上させない」と伝えるより、迷う場面の相談先を示す方が、社員が対応に迷ったときに役立ちます。
ケース3 不具合が一部の商品に見つかった
販売した製品の一部に不具合の可能性が見つかりました。対象は調査中で、経営者は「全部が悪いと思われたくない」と公表をためらっています。
対象外の製品まで誤解されない説明は必要です。同時に、影響する人が使い続けて危険にさらされる可能性があるなら、対象や対応を知らせる必要性が高まります。商品の安全や連絡義務について、現場と専門担当者が判断するための情報を集めます。
広報は、どの商品を持つ人が、何を確認し、どう行動すればよいかを分かりやすく整理します。商品名だけで判別できないなら、番号の場所や写真、問い合わせ方法を示します。説明を読んだ人が自分で対象か判断できるかが重要です。
問い合わせ数が急増することも考え、受付体制と回答を用意します。対象や原因が更新された際は、古い案内から最新版に進めるようにします。会社の評判が気になっても、利用者の安全に必要な案内を遅らせてはいけません。どの製品が対象で、今どうすればよいかを優先して知らせます。
案内が届いた後は、対象の利用者が点検の予約や相談を進められたかも確認します。表示回数や掲載件数だけでは、必要な行動が取れたかは分かりません。予約や相談で止まっている人がいれば、手順の説明や受付体制を見直します。
ケース4 災害が起きた日に予約投稿がある
大きな災害の報道が続く日に、企業アカウントで明るいキャンペーン投稿が予約されています。担当者は「すべての投稿を止めるべきか」「何か応援の言葉を出すべきか」と迷っています。
図でつかむ災害時は、必要な案内と宣伝を分けて考える先に必要性を確認する案内安全、営業の変更、予約、配送、問い合わせ先。
実施を見直す投稿通常のキャンペーンや、状況に合わない予約投稿。
すべて止めると、必要な案内まで届かなくなります。地域や被害、利用者への影響から判断します。
まず、従業員や利用者、事業所に影響があるかを確認します。営業、予約、配送、問い合わせ窓口の変更など、相手に必要な実務情報があれば優先して知らせます。普段のキャンペーンと、利用者の安全や移動に関わる情報は分けて考えます。
予約投稿を見直す際は、被害との関係、表現、地域、発信の必要性を確認します。一律に発信を止めればよいとは限らず、被災地でサービスを利用する人にとって必要な案内もあります。一方、災害に便乗して商品へ誘導するように受け取られる内容は、目的と表現を再検討します。
支援を発表する場合は、実施先との調整、内容、実行できる体制を確かめます。現地が求めていない支援を、会社を良く見せるために実施しないことが必要です。感情的なメッセージだけでなく、実際にできることを基準に判断します。
ケース5 資金調達の発表が期待を膨らませる
成長中の会社が、事業に使うお金を投資家などから集めたと発表します。会社がお金を用意することを「資金調達」と呼びます。経営者は「業界を変える」と語り、採用も増やしたいと考えています。一方、提供中のサービスには未解決の不具合があり、顧客対応が追い付いていません。
調達の発表では、集めたお金を何に使うか、今後何をするか、今の会社の状況を、確認できる範囲で説明します。資金を得たことは、製品が完成したことや、将来の成功が保証されたこととは違います。予定、実績、目標を混同しないことが必要です。
応募を考えている人には、挑戦できる機会だけでなく、現在の体制や役割、整っていない部分をどう改善するかが判断材料になります。顧客には、サービスの継続や支援体制への疑問があるかもしれません。投資家向けの表現を、すべての相手にそのまま使えるとは限りません。
このケースでは、会社の成長を伝える発信と、既存顧客への説明を並行して考えます。新しい計画の発表だけでは、今困っている顧客への答えにはなりません。どの問題を直すのか、そのために何を準備しているのかも説明します。
ケース6 発表した調査データに誤りがあった
広報が公開したアンケートで、答えをいくつでも選べる質問なのに、一つだけ選んだ結果のように説明していたことが分かりました。例えば「100人中60人がA、50人がBを選んだ」なら、両方を選んだ人がいます。それを「Aだけを選んだ人が60%」とは言えません。すでに記事になり、SNSでも共有されています。担当者は「集計表だけ直せば分からない」と考えています。
図でつかむ訂正は、元のページを直しただけでは届かない正しい数字を確認してから訂正します。すでに誤った資料を使った人にも知らせます。
まず元のデータと質問を確認し、誤りの範囲と、結論への影響を整理します。数値が一つ違うのか、比較の結果や見出しの結論まで変わるのかによって、訂正する範囲が変わります。正しい数字を再確認せず、急いで再公表すると、訂正を繰り返す恐れがあります。
元の発表を修正し、何をどう直したかを示します。資料を受け取った媒体や、影響する関係者にも連絡します。発信した事実がなかったことにはならないため、すでに使われた情報への対応が必要です。
原因の振り返りでは、担当者の注意不足だけで終わらせず、質問文、集計、図表、原稿を誰がどの順序で確認したかを調べます。調査の専門知識が必要な箇所に確認者がいなかったなら、次回の体制を変える理由になります。訂正を知らせる姿勢と、その後の確認方法の改善の両方が問われるケースです。
自社で起きた場合の対応を考える
似た出来事が自社で起きた場合、最初に誰へ連絡できるでしょうか。必要な記録はどこにあり、誰が判断し、どの窓口から相手へ知らせるでしょうか。事例を読み終えたら、この四つを自社の状況で書いてみてください。
答えられない部分があっても、個人の知識不足とは限りません。会社として担当や記録、判断の手順が決まっていないこともあります。この教材を参考に、決まっていない担当や手順を確認し、社内で準備を相談してみてください。
第22章 最初に押さえたい基本用語
1 役割と関係者の用語
図でつかむ用語は「名前→意味→例」で確かめる自分の言葉で例を一つ言えれば、意味をつかめたか確認できます。
2 企画と発信の用語
3 評価とリスクの用語
関連する分野の用語も、具体例と一緒に確認できます。
略語の暗記より、自分の企画で「誰の、どんな変化を、どう確かめるか」を説明できることを優先します。用語をさらに確認する際には、日本パブリックリレーションズ協会のミニ用語辞典も使えます。参考資料12
第23章 実務で使う書き込みシート
1 広報企画を一枚で整理する
「何に困っているか」「誰に何を伝えるか」「何をするか」「結果をどう確かめるか」を、一枚にまとめます。各欄は一、二文で十分です。分からない欄は、無理に埋めず「誰に何を聞くか」を書きます。働いていない方は、学校行事や架空の店を題材にしても構いません。
図でつかむ企画シートは、この順で考える分からない欄には、調べる内容や相談する相手を書いておきます。
解答例や説明と比べ、書いた内容を確認してから完了にします。
記入例を読んでみる
架空の店で、初めて予約する人から同じ質問が繰り返し届いているとします。企画名は「初めての予約を迷わず進める案内づくり」。目的の欄には「予約に必要な情報と申し込み先を理解してもらう」、実施内容の欄には「FAQを更新し、SNSと店頭から案内する」と書きます。何を理解してもらうかと、何を作るかを分ける例です。
現状の欄には、実際の問い合わせを調べて「どの画面で」「何が分からなかったか」を書きます。まだ記録を調べていないなら、「受付担当に直近の質問を確認する」と残します。分からない数値を想像で埋めるより、次に調べることが分かる方が役立ちます。
根拠の欄には、予約できる日時、必要な入力項目、変更やキャンセルの扱いと、それを確認する担当者を書きます。公開前の準備には受付担当への共有、公開後の対応にはメールを確認する人と、担当者がいないときに代わる人を書きます。記事を作る時間だけでなく、担当者の確認や質問への対応時間も見積もります。
評価の欄には、変更の前後で同じ質問を使い、予約先と手順を答えられるか確かめる方法を書きます。対象者、確認日、今の数値と目標を決めます。数値がまだない場合は、初回の調査を先に行います。問い合わせが減っても、それだけで理解が進んだとは限りません。利用者自体が減った可能性なども確認します。
想定する問題には、受付の集中やリンク切れなどを挙げ、誰がどう対応するかを書きます。シートを埋め終えたら、目的、活動、現場の準備、評価がつながっているか、声に出して説明してみてください。
中心となるメッセージは、読む相手に伝えたい要点です。例えば「初めての方も、希望日を選んで点検相談を予約できます」と書きます。「理解した人を80%にする」は企画の目標、「公開前にフォームを確認する」は社内の準備なので、別の欄に分けます。
2 公開前に確認する
企画の規模に合わせて項目を絞って使います。
- 目的と対象者が明確で、相手に必要な内容になっている。
- 名前、日付、曜日、場所、金額、数値、URLが正しい。
- 伝えたい内容の根拠と、どの場合に当てはまるかが確認できている。
- 画像、文章、音楽、人物紹介などの使用範囲を確認している。
- 個人情報、秘密情報、背景の写り込みを確認している。
- 必要な広告表示があり、表示全体で分かる。
- 過去投稿、予約、他媒体の案内と矛盾や不要な重複がない。
- 関係する現場が内容を知り、実際に対応できる。
- 事実確認と公開承認が済み、記録が残っている。
- 公開後の問い合わせ、訂正、緊急停止の担当者が決まっている。
3 月次の振り返りを書く
「何のために」「何をしたか」「誰に届いたか」「何が伝わったか」「会社や相手にどんな変化があったか」「来月は何を直すか」の順で、短く書きます。
例えば「記事を3本公開した」に加えて、「相談窓口への質問は減ったが、保証の対象外条件についての質問が残った。次月はFAQを修正する」と書くと、次の行動が決まります。減少の原因が確認できていない場合は、その点を区別して報告します。
4 日常の仕事の組み立て例
会社の規模や状況に合わせて頻度を調整します。報告のための集計だけが増えないよう、判断や改善に使う項目を選びます。
第24章 演習と解答例
演習1 広報の役割を説明する
上司から「広報は、会社の良いところをSNSで広める仕事でしょう」と言われました。広報に含まれる他の役割を挙げ、100〜200字程度で説明してください。
解答例と考え方を見る
広報は、会社と顧客、従業員、地域などが互いを理解し、信頼関係を築くための仕事です。SNSでの発信に加え、相手の疑問や不満を集め、社内に伝えて改善につなげます。取材対応、社内への方針説明、不具合時の情報提供も含まれます。誰に何を理解してもらうかを決め、目的に合った方法を選びます。
確認点は、情報を発信するだけでなく、相手の声を聞き、社内に改善を求める役割もあること、顧客以外の相手が含まれること、方法より先に目的を考えていることです。
解答例や説明と比べ、書いた内容を確認してから完了にします。
演習2 困りごとと、その解決方法を分ける
次の依頼に対して、すぐ投稿計画を作る前に確認すべきことを五つ書いてください。
会社の認知度が低い気がします。Instagramとnoteを始めて、毎日投稿したいです。
解答例と考え方を見る
- 誰に知られていないと考えているのか。
- 何を知ってもらう必要があるのか。
- 知られていないことで、どんな事業上の問題が起きているのか。
- 現在、どれくらい知られているかを示す調査や記録があるか。
- 対象者がどこで情報を得ており、社内にどの程度の運営体制があるか。
「投稿頻度を増やせば解決する」と決めず、対象者と課題を確認できていれば適切です。
解答例や説明と比べ、書いた内容を確認してから完了にします。
演習3 一つの出来事を相手別に考える
架空の店舗が、駐車場の一部を使って週末の相談会を開きます。顧客、従業員、近隣住民、報道機関について、それぞれ必要な情報を挙げてください。
解答例と考え方を見る
同じ文章を全員に送るだけで足りるかを考える問題です。説明の必要性や時期は、実際の影響に合わせて決めます。
解答例や説明と比べ、書いた内容を確認してから完了にします。
演習4 あいまいな表現を直す
次の文章を公表する前に、確認すべき事実を書き出してください。
地域No.1の安心サポートで、どんな故障にもすぐ対応します。
解答例と考え方を見る
図でつかむ強い宣伝文句を、確認できる説明へ確認が必要な表現「どんな故障にも、すぐ対応」
本当にすべて? 何時まで? どれくらい待つ?
確認できた場合の書き方「購入後の整備相談を、営業時間内に電話で受け付けます」
確認できた内容が右の条件だった場合の例です。別の根拠のない言葉で言い換えないことが大切です。
「地域」の範囲、「No.1」の対象と調査根拠、「安心サポート」の具体的な内容、対応できる故障、受付時間、費用、対応開始までの目安、対応できない条件を確認します。
根拠がなければ、No.1という表現は採用できません。確認できた事実が「購入後の整備相談を営業時間内に電話で受け付ける」ことなら、その事実と条件を説明します。別の根拠のない宣伝文句に置き換えないことがポイントです。
「すぐ対応」のような言葉も、そのままでは受付、回答、修理の完了のどれか分かりません。何を受け付け、いつまでに、どこまで行えるかを確かめます。比較表現は対象と指標もそろえます。例えば自社三店舗の売上で一位だった記録から、地域全体の満足度で一位だとは言えません。
解答例や説明と比べ、書いた内容を確認してから完了にします。
演習5 取材で分からないことを聞かれた
記者から、把握していない販売台数を聞かれました。回答例を作ってください。
解答例と考え方を見る
正確な数字を手元で確認できないため、集計期間と公表してよい範囲を担当部署に確認します。ご希望の締め切りを教えていただけますか。本日16時までに、回答できるかどうかを含めて一度ご連絡します。
推測で答えないこと、何を確認するかを明確にすること、相手の期限を聞くこと、連絡時刻を約束することがポイントです。公表できる数字かどうかの確認も必要です。
販売台数には、いつからいつまでの数か、何を販売として数えたかも必要です。工場から出した数と、顧客に売った数が同じとは限りません。約束した時刻に集計が終わらない場合も、確認中であることと次の連絡予定を知らせます。
解答例や説明と比べ、書いた内容を確認してから完了にします。
演習6 発信した量から成果を判断する
採用の記事を公開しました。閲覧は増えましたが、応募数は変わりません。この結果をどう評価しますか。
解答例と考え方を見る
最初に、記事の目標を確認します。仕事内容の理解が目標なら、対象者に届いたか、内容を理解したかを調べます。応募数が目標なら、募集案内が読まれた回数、応募ページへの移動、その途中で読むのをやめた状況を確認し、求人条件や募集時期の影響も検討します。
閲覧増だけで成功とせず、応募が増えないだけで失敗とも決めません。対象、目標、他の条件に基づいて判断します。
解答例や説明と比べ、書いた内容を確認してから完了にします。
演習7 誤った日時を投稿した
イベントの開始時間を1時間早く案内してしまいました。公式サイトとSNSに掲載済みで、予約者もいます。必要な対応を順序立てて書いてください。
解答例と考え方を見る
- 正しい日時と影響範囲を主催担当者に確認する。
- 関係者へ共有し、誤案内の拡大を止める。予約投稿も確認する。
- 公式サイトとSNSを修正し、誤った時刻と正しい時刻を示して訂正する。
- 予約者や転載先など、個別の連絡が必要な相手に知らせる。
- 問い合わせや早く来た人への現場対応をそろえる。
- 修正記録を残し、日時の確認方法を改善する。
実際には、訂正と関係者への連絡を並行して進める場合もあります。すでに読んだ人への案内と、現場の対応まで含められているかが確認点です。
解答例や説明と比べ、書いた内容を確認してから完了にします。
総合演習 自社の広報企画を一つ作る
自分の会社で繰り返し質問されることを一つ選び、第23章の企画シートを埋めてください。最初から大きなキャンペーンを考える必要はありません。「購入後の相談方法を分かりやすくする」「応募者に一日の仕事を説明する」程度の題材でも練習できます。
完成したら、次の五つを自分で採点します。0点はまだ書いていない、1点は書いたが調べたり説明を足したりする必要がある、2点は理由や具体例も説明できる、という目安です。この点数は学習用であり、資格や実務能力の認定ではありません。
- 対象者と、その人の疑問が具体的である。
- 目標が作業量だけになっていない。
- メッセージに確認可能な根拠と条件がある。
- 現場の準備、確認、承認、公開後の対応が決まっている。
- 結果の確認方法と、見直す時期が決まっている。
低い項目を調べ直し、企画を修正します。点数を上げるために架空のデータを埋める必要はありません。
例えば「利用者が自分に合う相談窓口を選べる」が目標なら、相談の具体例と窓口の候補を示し、どこを選ぶか確かめます。窓口一覧の閲覧数はページを開いた量、電話件数は連絡の量です。それだけでは、利用者が正しく窓口を選べたか分からないため、目標に合う確認を加えます。
第25章 学びを仕事に生かし、学び続ける
以下は、1日20〜30分、週4回ほど学ぶ場合の計画例です。各章の確認問題は20問あります。一度に終える必要はなく、途中で休んで続きから再開できます。問題を解く時間や、解説を読み直す時間も含めて予定を調整してください。読む速度や実務の状況に合わせ、1週間の範囲を2週間に分けても構いません。第20章と第21章のケースは、各週の内容に関連するものを選ぶか、基礎を読んだ後の復習に使います。
第22章の用語集と第23章の企画シートは、途中でも使えます。さらに文章を書く練習をしたいときは、第24章の演習を選んでください。読了率には補助教材の4章も含みますが、シートへの記入や実践課題の提出は必須ではありません。
note記事を学習に使う読み方
記事を読むときは、手法だけを抜き出さず、次の六つをメモします。
図でつかむ読む、解く、確かめる、読み直す↶ 分かったことを、次の取り組みに戻す
問題から始めても構いません。点数だけでなく「なぜこの答えか」を自分で説明してみます。
- どんな会社の、どんな状況で行われた仕事か。
- どの相手との間に、どんな問題があり、それをどう解決しようとしたか。
- なぜ、その媒体や方法を選んだか。
- どんな人員、予算、社内協力が必要だったか。
- 成果を何で確かめたか。
- その方法を自社でも使えそうか。対象者や人員、予算などの条件にどんな違いがあるか。
成功した投稿の形だけをまねると、対象者や体制の違いを見落とします。記事に書かれていない項目は「不明」として残し、自分で推測した内容と著者が説明している内容を分けます。
「うまくいった」の中身を読む
次の短い文章は、読み方を練習するための架空例です。
採用に悩んでいた会社が、社員の仕事を伝える動画を毎週公開しました。担当は5人。3か月後、応募者は前の3か月より増えました。筆者は「動画で会社の雰囲気が伝わったのだと思います」と振り返っています。
この文章から分かるのは、採用が課題だったこと、動画を公開したこと、担当が5人だったこと、前後の期間で応募者が増えたことです。一方、予算、具体的な人数、応募者が動画を見たかは書かれていません。「会社の雰囲気が伝わった」は筆者の解釈です。応募者本人に確かめた事実とは分けて読みます。
同時期に待遇を変えた、広告を増やした、募集人数を増やした可能性もあります。記事に書かれていないからといって、何も変わっていないとは言えません。「動画だけが応募増加の原因」と結論を出す前に、どこまで調べられているかを見ます。説明が足りない部分があっても、記事全体を否定する必要はありません。分かることと、判断を保留することを分ければ参考にできます。
「反響が大きかった」「多くの人に届いた」と書かれている場合も、誰の、どんな反応かを確かめます。フォロワーが増えたことから分かるのは、投稿を受け取る登録者が増えたことです。それだけで売上が増えた、信頼された、応募者が仕事を理解したとは判断できません。成果を読むときは、第15章の「何を出したか」と「相手に何が起きたか」の違いを思い出してください。
自社でも使えるかを考える
自社は一人で広報を兼務しているなら、5人のチームと同じ量を作るのは難しいかもしれません。それでも「仕事の様子を具体的に見せる」という考え方は参考になります。応募者によく聞かれる質問を一つ選び、現場への短い聞き取りから記事を作るなど、自分たちが続けられる形に変えられます。
目的が違う場合も、そのまま移さないようにします。全国に知ってもらう企画と、契約中の顧客へ料金変更を知らせる企画では、届ける相手と期限が違います。後者は、直接連絡して届いたか確かめる方が必要なこともあります。
試す前には、誰のどんな疑問を減らすか、何を確かめてから公開するか、いつ結果を見るかを決めます。公開後の問い合わせ担当が記事に書かれていなくても、自社で準備が不要になるわけではありません。法律やサービスの仕様に関する過去の記事を使う場合は、現在の公式情報も確認します。
正解の理由を、自分の言葉で話す
問題に正解しても、偶然選んだだけかもしれません。「なぜこの答えなのか」「ほかの選択肢では何が足りないか」を、短い言葉で説明してみてください。説明できないときは、解説から関連する本文へ戻ります。用語は第22章で意味を確かめ、本文の場面と結び付けます。
間違えたときのメモは、「Bが正解」だけでなく、「名前を知っていることと、仕事を任せられると感じることを混同した」のように書くと復習に役立ちます。別の店や出来事に置き換えて説明できるかも試してみましょう。すべてを一度で覚えようとせず、分からない点を見つけて読み直します。
実務経験がない場合は、学校行事や架空の店を題材にできます。架空の条件は架空と明示し、実在の会社の実績として扱わないようにします。自社を題材にして、承認者や記録の場所が分からなかった場合は、社内で確認します。個人の勉強だけで解決する問題と、会社で手順を決める必要がある問題を分けます。
最後に、読んだ事例を「目的」「使えた条件」「方法を選んだ理由」「自社で変える点」の四つでまとめてみてください。投稿の形を覚えるよりも、別の場面で考える助けになります。
試す前の状態も記録します。例えば相談先の理解を改善したいなら、公開前に相談先を答えられるか調べ、公開後も同じ方法で確かめます。記事の公開本数や他社の成果の数字だけでは、自社で何が変わったか比較できません。
学習の振り返りでも、「何を確認したか」を分けます。動画を見たアカウント数は、情報に触れた相手の数です。見た人に仕事内容を説明してもらえば、内容を理解したかを確かめられます。また、店の名前を知るのは認知、雰囲気を好きになるのは好意、故障したら頼れると思うのは信頼です。似た言葉でも、確かめている状態が違います。
2026年10月18日の増補では、日本パブリックリレーションズ協会が公表している基礎知識の分野も参照し、学ぶ範囲を点検しました。広報の役割と理論から企画・調査・発信・評価へ進み、その後でIR、社会・環境、海外、行政・地域の基礎とケースを学ぶ順にしています。説明、事例、問題、図解は本教材用に作成しています。協会の公式教材や、資格試験の全項目に対応する教材ではありません。
以下は本文の考え方や制度を確認するための参照先です。本文の説明、表、事例、問題は学習用に編集しています。参照先の団体による監修・推薦・認定を受けた教材ではありません。各資料の正確な定義や最新の条件は、リンク先で確認してください。
PESO Model®の提唱者と説明はSpin Sucksの公開ページで確認できます。本教材では公式図版を使用していません。
本文の解説、架空例、演習は、初学者向けに構成したものです。専門団体の定義や枠組み、法令・権利に関わる説明には、該当箇所の参照先を付けています。資料確認日は2026年10月17日です。制度や媒体の仕様を実務に適用する際は、その時点の公式情報を確認します。
基礎から順に学び続けるための本として、日本パブリックリレーションズ協会のPRプランナー関連の公式テキストがあります。書名や版は公式テキスト・参考図書の案内で確認できます。
最初の復習では、自分の仕事や身近な店を一つ選んでください。「誰に」「何を理解してもらうか」「どんな関係を目指すか」「どの事実をもとに伝えるか」「結果をどう確かめるか」を、自分の言葉で説明してみましょう。答えにくかった部分を読み返し、企画シートへ反映することで、次の仕事に使える知識として整理できます。
制作者と教材の位置付け
制作・編集:伊藤 考矢
所属:株式会社アウトスペック/企画・広報部チーフ・AI戦略室
最終更新:2026年10月18日
企業の広報を初めて担当する人のために制作した、独自の学習教材です。所属の表示は制作者の仕事を紹介するもので、アウトスペックの公式教材を示すものではありません。日本パブリックリレーションズ協会、日本広報学会、PRSA、AMEC、Spin Sucks、noteの公式教材ではありません。これらの団体・サービスによる監修、推薦、認定、提携を示すものでもありません。
読了や問題の成績は、この教材での学習記録です。資格や実務能力の認定ではありません。
参考資料と制作方法
広報の定義や評価方法は、本文と参考資料に挙げた公開資料を参照しています。本文では初心者向けに説明し、学習用の表や例を作っています。参照先の正式な定義・図表・教材をそのまま掲載したものではありません。正確な原文はリンク先をご覧ください。
店舗、担当者、数値、お知らせ文、問題の場面は、学習のための架空例です。実在企業の実績や実際の発表文を紹介したものではありません。「実務例と次の学び」にあるnoteへのリンクでは、教材の架空例と区別して、制作者本人の仕事を紹介しています。
文章案・問題案の作成、構成整理、画面の実装には生成AIを使用しています。画面の本などの線画は、この教材用に作成しています。制作者ページの人物イラストは、制作者の発信で使っているキャラクターをもとに生成AIで制作したものです。実写の肖像ではありません。記事紹介には、制作者本人のnoteで使用している見出し画像を掲載しています。外部サイトの写真や団体・サービスのロゴは使用していません。
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仕事で使うときの確認
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